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The way to the kings  作者: 使徒澤さるふ
第二章 逃亡、行商編
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第四十六話 〜戦争が生むもの〜

 カナリス伯爵連合国。


春の芽吹きが終わり、花が散り緑に変わる頃。


最前線からほど近い、アルタイル・ミンター男爵領、ミンターの街。


宿の庭、二人の男性は木剣で模擬戦を行っていた。


それを見守るのは赤毛の親子、そして金髪の美女。


ヒデヨシは、実に数カ月ぶりに剣を振っている。


そして、違いすぎる実力を見せつけられていた。


ヒデヨシの横薙ぎも、袈裟斬りも何もかもが簡単に受けられる。


一切その場を動かずに、受けるだけに留めるカール。


やがてヒデヨシの息があがり、膝に手をついた事で模擬戦は終わった。


「ヒデヨシ様、俺が居なくなって訓練やめてしまったんですか」


カールの始めての攻撃が、ヒデヨシの胸に刺さる。


「うっ、いやまあそうなんだが、カール」


「見違えたよ、これほどまでに強くなっているとは」


「もう単純な力比べでも、私では相手にすらならないな」


ヒデヨシが、膝から手を離して体を起こす。


「俺、そんなに強くなってますかね」


カールにはその自覚など無い。


「やっぱりカール様、すごいです」


リールはパタパタと尻尾を振り、アクアの手元から発射した。


リールの目標はカール、無事着弾し、カールに頭を撫でられる。


「カール、君の周りに居た人達が強すぎるだけなんだろうと思うが」


「もう君と戦うには、三十人くらいの犠牲を覚悟しなくてはならないと思うよ」


「そんなにですか・・・、じゃあオルカー様って本当に強いんですね」


カールは、あまり実感がなさそうに頭をひねらせる。


「オルカー様、何度かお話に出ておりましたね」


「カール様より強いということは、エドガー様とも戦えたりするのですか」


リールは興味津々だ。


「ああ、オルカー様っていうのは、エドガー様の剣を受けて無事な人で・・・」


いつものリール、リールは戦記に夢中になり、カールの話を紙にまとめていく。


ローズとアクア、二人はヒデヨシに近づき、密かに競う。


ローズがヒデヨシの木剣を受け取り、アクアはヒデヨシの服の汚れを落としていく。


「ありがとう二人共」


ヒデヨシが二人に微笑む。


「それにしても、少し治安が悪い街ですわね・・・」


アクアが人目を気にしながら話す。


「活気もありませんし、路上で座り込んでいる方々も目立ちます」


「恐らく戦争の影響だろうな」


ヒデヨシが荒廃の要因を答える。


「戦争というのはいつもこうだ、心を荒廃させ、意味もなく罪もない人達が一番被害を受ける」


ヒデヨシは拳を握りしめ、怒りが辺りに染み出した。


「だから私は戦争が嫌いなのだ、特に対話もせず、支配のためだけの戦争ほど愚かなものはない」


「そうですわね、話し合えば互いを理解し、愛し合う事が出来ますもの」


アクアがヒデヨシの腕を取り、いつも通り押し付ける。


それを見て、ローズはすぐさま引き剥がしにかかる。


「アクア様、そろそろ買い出しに行きませんと、ここは治安も悪いですから、早めに出立いたしましょう」


ローズに押し出され、アクアはそのわかりやすい行動を楽しんだ。


「ふふっ、そうですわね、一人になるのは危険ですから、犬車で移動しながらにいたしましょう」



 商人の犬車が、ミンターの街を巡る。


商店が少なく、食料は異様なほど高い値が付いている。


ヒデヨシが持つ金属製品などは売れず、食料不足が深刻な様子が見て取れた。


「・・・、あまり補給にはなりそうにないな」


ヒデヨシが、率直な感想を家族に伝える。


「そうですね、まさか逆に売って欲しいとまで言われてしまうとは・・・」


ローズが更に付け加える。


「周りの視線も気になります、全員が荷車を狙っているんじゃないでしょうか」


カールが更に追い打ちをかけた。


「早めに引き上げて、内地を目指したほうが良さそうだな」


「食料はかなり持ちます、カザル支配圏に入ってもまだ余裕があるはずです」


リールが、リストからの予想を出す。


「わたくしも、この街は早く出たほうが良いと思いますわ」


アクアにも異論は無い。


ヒデヨシ一家は、そのまま街の外へ犬車を走らせ、カザル方面への街道を進む。



 ミンターの街はずれ、一人の男が人目を気にしながらテントへ入る。


ミンターには既にテントやあばら家が立ち並び、脱走兵や敗残兵、犯罪者がより集まっていた。


「デギンス、獲物になりそうなやつがいたぞ」


テントの中、バラバラな装備の汚い男が頭をかく。


右足には鉄の膝当て、左足は皮、半分壊れた革鎧は直され、割れた兜を適当に持つ。


「ゴード、金は食えねえ、金だけ持ってる商人じゃあ意味がねえんだぞ」


デギンスと呼ばれた男は、自分と同じような装備をした男に向き直った。


「ああ、前の奴は荷物の事に気がつかなかった、だからしっかり積んでるやつを見つけて来たんだよ」


「ほう、そりゃあいいな、食料なのか」


「わかんねえが、荷車は一杯だったし、女とガキばかりで襲いやすい」


「それにカナリス方面から来てるやつだから、前線に食料を売るつもりなんじゃねえかな」


「荷物はあるって事か、まあ金じゃねえんなら使える」


「それに女か・・・、久しぶりだな、絶対殺すなよ、ここで飼った方が楽しめる」


デギンスは、下卑た笑みと恫喝の顔を混在させてゴードを見る。


「ああ、わかってるよ、だが女が死んでも俺達を殺そうとするんじゃねえぞ」


「よし、さっさと行くぞ、国境まで行かれると厄介だ」


デギンスがテントを出て、ゴードがそれに続く。


「野郎ども、仕事の時間だ」


デギンスの号令で、スラムの中からゾロゾロと這い出す。


他種族、出生不明で犯罪者や敗残、脱走兵からなる盗賊団体。


堂々と盗賊行為を行っていても、討伐に回す余裕など無いのがミンターの現状だった。


戦争が生んだ荒廃、文明や道徳の力が弱まる時、原初の力が正義に変わる。


これは本能。弱肉強食、単純に勝ったもの、強いものが正義。


野生動物の本能による正義、人類もそれに立ち返る。

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