第四十二話 〜旅立ちへの決意〜
街道を騎竜が走る。
既に疲れを見せる騎竜は、踏ん張って先を走る犬車を追う。
「ヒデヨシ様、後ろから竜が来ているのですが」
ローズが、荷車の中から犬を操るヒデヨシへ声をかける。
「もう追手が来たのか」
「いえ、違う気がします、その、乗っているのがカールのようなのです」
「なにっ、カールだと」
その声とともに、犬達に少し速度を落とさせる。
騎竜の乗り手は、それを受けて犬車に肉薄していく。
騎竜は、荒い息をしながらも犬と並走を試みた。
近づいてくる騎竜、それを操る金髪のたくましい男性の顔が明らかになっていく。
「やっぱり、カールですよヒデヨシ様」
それを受けてヒデヨシは、更に犬車の速度を下げる。
「ヒデヨシ様」
騎竜を操るカール、ついに犬車と並走し、互いの顔を認識できるところまで近づいた。
「カール、・・・よく来てくれた」
シュタイゼルの手前、最後の宿舎を出てしばらくのところで、カールは犬車に追いつく。
犬車と騎竜は、ついに出会い、両者は歩みを止める。
「ヒデヨシ様、エドガー様が貴方の命を狙っています」
カールは、急いで騎竜を降り、ヒデヨシの元へと駆け寄った。
「ああ、報告ありがとうカール」
ヒデヨシは、犬車の荷台から降りながら答えた。
「君の行き先は、追跡されていたりはなさそうだな」
ヒデヨシが、グリムウェルへの道を眺めながら話す。
「ええ、俺は真っ先にラボに向かって、こっちへ行けってタダンさんが教えてくれました」
「タダンさんが、ダリス様への手紙と通行証をくれたんですが、街に着く前に合流できてよかったです」
「そうか、タダンに会ったのか、本当によく来てくれた」
ヒデヨシは握手を求め、カールはしっかりとそれに応じる。
「しかし、エドガーの狙いがこちらとなると、この国に居る事は出来そうもないな・・・」
ヒデヨシは、拳を握りしめて思案する。
「悔しくはありますが、ひとまずはお父様のところへ急ぎましょう」
アクアがふわりと地面へ降り立ち、二人へと進むことを促す。
カールは、その女性を見て、ローズの姿をも確認した。
「ああ、そうか、カールは彼女達とは初対面だったな」
アクアマリンとリーリールは、同じ顔をして並び、カールに向けて礼をする。
「貴方がカール様ですか、お噂はかねがね、わたくしはアクアマリン・バーンシュタイン」
「僕はリーリール・バーンシュタインです」
「「よろしくおねがいいたします、わ」」
兄弟は仲良く同じような言葉をカールへ向けた。
「俺はカールです、その、修業のためにジェロニアに居ました」
「でも、ヒデヨシ様と国が危ないって聞いて、エドガー様の部隊と一緒に来て」
「エドガー様はヒデヨシ様を殺す気だったから、急いで来ました」
カールは、整理もつかずに自分の事を言葉にする。
「僕、カール様はジェロニアに招待されるほど強い方だと聞いています」
「ぜひ、武勇伝をお聞かせ頂けませんか」
目を輝かせて頼むリール、戦記好きのリーリール、その異名。
彼がカールに興味を持たないはずもなかった。
「え、いやそんなすごい事なんて・・・」
カールは、目を輝かせて詰め寄るリールの対処に困る。
「リール、落ち着くのはダリス様のところに着いてからにしよう」
自分では止まれそうにないリールに、ヒデヨシは犬車に乗るよう促した。
シュタイゼル、領主のそれを反映したような整った街並み。
きっちりとした区画、区画毎にも役割はしっかり決められており、規律を感じる。
ヒデヨシ一同は、ダリス伯爵の邸を目指す。
「あ、ヒデヨシ様、その道を真っ直ぐ進んでくださいまし」
アクアが荷車の幌から顔を出し、ヒデヨシを案内する。
リールはカールにまとわり付き、出てくる武勇伝に目を輝かせていた。
結局リールは、自分の家の存在にも気がつかずカールに質問攻めをし、ローズとアクアに引き剥がされた。
ダリス伯爵邸の客間、そこでは夫婦が来客をもてなす準備をしている。
「お母様」
一番槍はリーリール、客間の扉を乱暴に開け、アリア目がけて飛び込んだ。
「お父様、お母様、お久しぶりです」
後ろに続いたアクアマリンが、喜びとともに両親の元へ駆け寄る。
更に後ろで、ヒデヨシとローズマリーが静かに入室する。
「ヒデヨシ殿・・・」
ダリス伯爵は、娘への挨拶もそれなりにヒデヨシに向けて声をかけた。
「ダリス伯爵様、私の素性を偽っていた事、本当に申し訳ございませんでした」
ヒデヨシは、謝罪の言葉と共に頭を下げる。
「貴方が謝るようなことではありません」
「私は貴方が召喚された者であるという事に関わらず、貴方が作る未来を見たいと思っております」
「それに、娘も息子も貴方の事を信頼している」
「子供達は貴方の出自ではなく、人柄に惹かれているという証明でしょう」
「私に出来る事は、貴方を国外へ逃がすことくらいです・・・」
ダリス伯爵は、憂いたような顔をしてヒデヨシの肩を取る。
「ありがとうございます、ダリス様」
そうして二人は硬い握手をした。
「それではヒデヨシ殿、こちらで行商の荷車と衣服を用意致しました」
ダリス伯爵が、執事に用意させた衣服を見せる。
「お父様、その、ご相談がございます・・・」
アクアマリンは、父の目を真っ直ぐ見ることが出来ず、気まずそうに話す。
「わたくしも、ヒデヨシ様に同行させて頂きたいのです・・・」
ダリス伯爵は、大きく息を吐いて娘の言葉への返事を出す。
「アクアよ・・・、お前がそう言う事はわかっていたさ・・・」
「・・・、本当に良いんだな、今ならここに帰り暮らすことも出来る」
「行く道にはきっと辛い道になる、それでもお前はきっと行きたいと言うのだろうな」
「・・・はい、申し訳ございません」
アクアの尻尾は元気が無くなり、その表情が尻尾の意味と同じように見えた。
「リール、お前もなんだろう」
ダリス伯爵は、もうわかっていた事を息子にも確認する。
そして、アリアはその言葉を聞いて息子を胸の中から開放した。
「はい、お父様、お母様、僕もヒデヨシ様と一緒に行きます」
リールの瞳には、強い意志が込められていた。
その言葉を聞き、アリアは再度息子を胸の中に閉じ込めた。
離したくは無い、その強い思いを乗せて、一度しっかりと息子の目を見る。
アリアは、きっとわかっていた、自分の子供達の頑固さを。
「・・・母様はね、本当は嫌よ、だからもう少しこのままでいさせて」
そう言って、優しく抱きしめる。
「母様、ごめんなさい、でも必ず戻ってきます」
リールは、体中で母を感じ、名残惜しそうに手を離す。
「あまり時間は無いかもしれない、ゆっくりと休養させてやれないのが申し訳ないが」
「準備ができ次第、カザル方面へ行商として向ってくれ」
既に、アクアとリールの衣服は用意されていた、ダリス伯爵にはこうなるという確信があったのだ。
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