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The way to the kings  作者: 使徒澤さるふ
第一章 グリムウェル編
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第四十一話 〜勝利とは〜

 燃えるグリムウェル。


グリムウェル守備隊の声は届かず、交渉など無く殺害された。


そして、領民に愛され、良き領主であった事こそが、最悪の結果を生む。


既に投降を考えていたローレンタールの心に反し、守備兵は領主を守る心を蓄えていた。


そしてそれはなんの躊躇も無く殺される同胞によって、弾けて猛る。


怒号が部隊を支配し、ジェロニアの騎士へと襲いかかり、それがグリムウェルの反逆を証明していく。


エドガーは侵攻を止める術を持たず、ただエリザベートが作る戦を眺めるのみ。


街は焼かれ、略奪される中、オルカーとエリオノールの部隊のみがそれを抑制していた。


「エリオノール、ひとまずカールの事は忘れろ」


「わかっていますオルカー様」


「それに、あいつはもう戻りませんよ」


オルカーは、何も知らぬ街人への被害を抑えるベく走り続けていた。


「ああ、惜しい男だが、こうなってしまったのは残念でならない」


「エリオノール、ここはお前の祖国だ、お前の好きにしてもエドガー様は咎めはしない」


「私は、エドガー様もオルカー様も信じておりますので」


「ありがとうエリオノール」


そう言って、二人は街を駆け巡る。炎に包まれるグリムウェル。


ここは、戦争の香りがする。


オルカーはただ、戦火の匂いに父の事を思い出していた。



 「ゴルダン様、オーガスト伯爵と名乗るものが来ておりますが」


ゴルダンは、グリムウェルの門前で忙しく働く中で声をかけられた。


「オーガスト、例の申告者か、通せ」


大柄な伯爵が、頭一つは差のある男爵へ傅く。


「ゴルダン様、こちらにヒデヨシと名乗るものはいらっしゃいませんでしたでしょうか」


「ヒデヨシ、名前はわからんが、訪問者は貴様が始めてだ」


「さようでございましたか、失礼しました」


ゴルダンは怪訝な顔をして、不快感をあらわす。


「召喚者のヒデヨシが、ジェロニア軍へ交渉に向かったと伺いましたので」


「こちらへ姿を見せたかと思い、確認させて頂きました」


「ほう、では召喚者はこのグリムウェルに居るという事だな」


「はい、その可能性が高いと思われます」


「それで、ここからは提案となりますが」


「私は、グリムウェルの街が焼かれるのは本意ではありません」


「今回の反逆はローレンタールの独断行動によるものです」


「彼を説得し、ヒデヨシの居所を追求し、二人をここへ連れて参ります」


オーガスト伯爵は、真っ直ぐな目でゴルダンへと提案した。


「・・・、まあよい、やれるのであれば連れてきて見ろ」


「ありがとうございます、それではしばしお待ち下さいませ」


オーガスト伯爵は、翻して街の中央を目指す。


街はまだ、火と喧騒の戦場のまま、無為に人が殺され、略奪されていた。



 「やはり、貴方の策略でしたか、オーガスト様」


グリムウェル、ローレンタール邸、二人の男がこの中で対峙していた。


「ローレンタールよ、この世界は力のあるものに従うべきだ」


「エドガー様への忠誠、その信頼を得る為にも、貴様には死んでもらう」


「・・・、理由は違いますが、僕が投降する事には賛成しています」


「これ以上領民に犠牲を出す事を私は望んでおりません」


「ヒデヨシはどこに居る、お前と一緒だと考えていたのだが、なぜこの邸に居ないのだ」


ローレンタールは、少し笑みを浮かべた。


「ヒデヨシ様の邸には立ち寄った上で、こちらに来たのですか」


「もしそうなら、やはり面白い運命になりましたね」


「どういうことだ」


オーガスト伯爵は、乱暴に机を叩く。


「オーガスト様、ヒデヨシ様は必ずグリムウェルへ戻ってまいります」


「そして、必ずや力のみで支配するのではない、新しい世界を見せてくれるでしょう」


「ヒデヨシはどこへ逃げた」


「潜伏する方法はいくらでもありますが、既に国外へ出ている事でしょうね」


「ふふっ、それでは行きましょうかオーガスト様」


ローレンタールは、処刑台へと続くこの道を満ち足りた表情で進む。


オーガスト伯爵は、拳を握りしめ、奥歯を噛みしめていた。



 グリムウェルの街がざわつく、それは喧騒の中、かき消えずに辺りへ広がっていく。


ローレンタール・グリムウェル・スチュアート。


衛兵も領民も、領主のその生命を救うために尽力していた中、捕らえられた姿で練り歩いているのだ。


猛り戦っていた者達は肩と武器を落とし、戦闘行為は少しづつ終わりへと進んでいた。


そして、広場の中心に差し掛かった時、辺りの注目をローレンタールは一身に集めていた。


「皆よく聞け、グリムウェル領主、ローレンタールが命じる、戦闘を止めよ」


「今回のジェロニアによる侵攻はこの僕一人にのみ責がある」


「ここに居る者達には、明日を生きる事を考えて欲しい」


「そして僕が見出した未来はまだ繋がっている」


「ここで戦い散る事に意味はない、真の平和が訪れる日まで生きよ」


オーガスト伯爵に広がっていく敗北感。


オーガスト・レイヴンクロストは、答えのない迷路の中に一人、迷い込んでいた。


思考の迷路、グリムウェルを手に入れる事が目的だったはずの、手に入れた事による敗北感。


ローレンタールの勝利宣言のような言葉に、さらなる迷路の中へとオーガストは進んでいくのだった。

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