第四十話 〜止まらぬ侵攻〜
ヴィンクスでは、凄惨な拷問がその生命と共に終わりを迎える。
「ちっ、死んだな」
騎士は、その一言だけを吐き捨てる。
「ゴルダン様、結局召喚者の居場所がわかりませんでした」
ヴィンクスの常駐兵はその様子を遠巻きに見ている事しか出来ず、民衆は家に閉じこもっていく。
「この村を拠点とし、グリムウェルに侵攻する」
ゴルダンの号令の元、村の中心で拠点の設営が始まる。
「それと、適当な者を捕らえ召喚者の事を尋問しろ」
ローレンタールは、急ぎ守備を固めていた。
「ローレンタール様、ジェロニアの二個大隊がヴィンクスを制圧したようです」
「更に、その後ろから中隊規模のジェロニア軍が来ております」
「増援・・・、いや、なぜ中隊が加わるのだ」
「ジェロニア軍の出方次第だが、お前たちは防衛に徹するように」
「かしこまりました」
ローレンタールは、一つの覚悟をして、あえて増援を呼ぶことをしなかった。
国全体でジェロニア軍へ反抗すれば、この国は滅ぶ。
「ルシア」
「リリーを連れて、街の外へ出てはくれないか」
「・・・奥様は、ここに残る事を望まれると思われますが」
部屋の隅、変わらぬ姿で立つルシアがひざまずく。
「そうだね、だから僕は頼んでる」
ローレンタールは、優しく微笑んでルシアを見る。
「・・・、かしこまりました、命にかけてお守り致します」
「ありがとうルシア、ヒデヨシ様と娘についても感謝しているよ」
「・・・、行ってまいります・・・」
ルシアは、ローレンタールに顔を見せる事が出来ず、そのまま部屋を出た。
ローレンタールは一人、窓の外を見ながら呟いた。
「ヒデヨシ様、最後まで共に歩むことが出来ず、申し訳ございません」
拷問の悲鳴が響くヴィンクス、一人の騎士がその中へ入り込む。
「お前達、何をやっている」
白銀の騎士、オルカーがその行為を咎めた。
「これはオルカー殿、このようなところでお見かけするとは」
ゴルダンが、冷淡な笑みでオルカーを迎える。
「なぜ市民を拷問しているのですか、説明次第では許される事ではありませんよ」
一人の大剣士が、天にも届こうかという存在感とともにその話しの中心に立つ。
「エドガー様」
そこにいるもの全てがひざまずき、エドガーの声を待つ中。
一人、エドガーの歩みの先を塞ぎ、対等に構える妖艶な美女。
「エドガー、まさかお主がわざわざ来るとは、妾に要件があったのかえ」
エリザベートは、悠々と歩き、エドガーに対峙する。
「無意味な殺戮は好まん」
「お主も情報を掴んだからここに居るのじゃと思うが」
「グリムウェルは召喚者を囲い、ジェロニアへの反逆を企てておる」
「故に尋問を行っておる、そして奴らが口を閉じるのは反逆の何よりの証拠」
「ましてや戦争の情勢も悪い、反逆の制圧を急がねばならぬ」
エリザベートの言葉には間違いは無い、本人の自信がそれを真実だと伝える。
「これもジェロニアを思っての事じゃ」
「これからグリムウェルへ侵攻する、お主も当然協力してくれるじゃろうな」
エドガーは、しばらくエリザベートを睨みつける時間を過ごした。
「好きにしろ」
その一言で、エドガーは翻してその肩で風を切る。
オルカーは一礼し、エドガーの後を付いてこの場を立ち去った。
「エドガー様、よろしいのですか」
ヴィンクスの外れ、部隊へ戻るエドガーに、オルカーは追いつき並ぶ。
「今の所、処断するほどの理由はない」
「あいつの狙いは召喚者だ、制圧に参加しつつ召喚者を先に見つけろ」
「かしこまりました」
「お前で対処できそうなら、お前で殺して良い」
「無理そうなら俺を呼べ、エリザベートに確保される前に殺す」
オルカーは続いた言葉に驚き、その疑問は言葉になる。
「よろしいのですか、その、こちらの味方になる可能性もありますが」
「既に遅い、不確定要素なら殺したほうが早い」
「仰せのままに、エドガー様」
その言葉と共に、エドガーの中隊約百五十名はグリムウェルへと動き出した。
オーガスト伯爵は、三個中隊規模の人員を連れてラボへと足を踏み入れる。
そして、ラボへ着くなりヒデヨシ邸を取り囲み、その扉を開け放った。
「ヒデヨシ殿、いらっしゃいますか」
タダンは、二度目の来訪者にもカールの時と同じ笑みで迎えた。
「オーガスト伯爵様、ようこそお越しくださいました」
「お前は・・・、ラボの商人、タダンと言ったか」
「さようでございます、覚えて頂けていたとは光栄です」
「ヒデヨシ殿は、どうしたのだ」
「今日は、こちらにはいらっしゃいません」
「では、ヒデヨシ殿はどちらに」
「・・・、なぜオーガスト様はこちらにいらっしゃったのですか」
タダンは、笑顔のままオーガストに問う。
「ジェロニアからの侵攻を聞き、ヒデヨシ殿の身を案じたのだ・・・」
オーガスト伯爵は、真剣な顔を見せて答えた。
それを受け、タダンは表情を変えずに行き先を告げる。
「・・・ヒデヨシ様は、ジェロニア軍を止める為に動き始めたようです」
「なっ、そんな馬鹿な・・・」
「既にヴィンクスでは被害も出ていると聞き、交渉の余地は無いか探ると言っておりました」
「・・・そうか、では私もグリムウェルへ向かう」
「かしこまりました、私はここで皆の帰りをお待ちしますよ」
一礼したタダンを後ろに、オーガスト伯爵はヒデヨシ邸を後にする。
オーガスト伯爵は笑みを浮かべ、グリムウェルへとの道を急いだ。
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