第三十七話 〜平和のひととき〜
冬、今日はおそらく冬一番の寒さとなるかもしれない。
ラボでは、寒さもあってか外で活動している人も少なく、静けさがあった。
「ヒデヨシ様〜」
リールは、暖かく暖房の効いた部屋をパタパタと走り抜ける。
困り果てたような顔をして、ヒデヨシの影に隠れた。
「どうしたリール」
「姉様達が僕を取り合って喧嘩するのです」
「はあっ・・・」
ヒデヨシからは率直なものが漏れ出る。
「リールっ、今日はわたくしと一緒におやつを食べましょうね」
ローズが、笑顔でリールを呼ぶ。
笑顔は本来、威嚇に用いるものであるとかなんとか。
「リール、今日は姉様に将棋を教えてくれる約束でしょう」
アクアが、自分の膝を指定して、座るように手で示す。
デートのダブルブッキング、寒い今日、仕事を控えた美女二人は、暖かい毛皮を求めてさまよっていた。
「ヒデヨシ様・・・、なんとかしてください」
リールは、迫りくる危機から身を隠し、潤んだ瞳でヒデヨシを見た。
「なんとかしろと言われてもな・・・」
ヒデヨシは困ったように頬をかき、リールを求める二人と対峙する。
「リール、カーサスから仕入れたレシピを再現してみたの、とっても甘くて美味しいわよ」
お茶とお菓子を持ったローズが、リールに襲いかかろうと構える。
「リール、昨日姉様と約束しましたよね、今日は将棋をすると」
アクアは、優雅に座りながらリールを迎える仕草を見せている。
きっとこの戦いは、リールが二人居ないと解決しない。
ヒデヨシはふと、犬の毛皮を模したぬいぐるみが売れるかもしれないと考えた。
「あー二人共・・・、リールが困っている」
リールは、更にヒデヨシと密着し、その暖かさが伝わる。
「ヒデヨシ様・・・」
ローズがまず、声を漏らし、アクアがそれを続ける。
「そのような卑劣な方法をお取りになるとは・・・」
リールは、その綺麗でさわり心地の良い、暖かい体をヒデヨシに預けているのだ、この寒い冬に。
「わたくしの弟を独り占めするなど、許される事ではございません」
「もちろん、かわりにわたくしがヒデヨシ様を暖めて差し上げますので」
「リールは、わたくしが引き取りますわ」
アクアは艶を出し、一石二鳥を狙う。
「アクア様、それはおかしくはありませんか」
「お忙しいヒデヨシ様の邪魔をなさらないでください」
ローズは腰に手を当て、プリプリしていた。
「全く二人共、そんなにリールとくっつきたいなら、三人でくっついて将棋をしながらお菓子を食べれば良いじゃないか」
「えっ、僕・・・」
リールは少し困惑したような顔をして、ヒデヨシの服を掴む。
「良いじゃないかリール、こんな美女二人が取り合うなんて、二人共幸せにしてあげなさい」
「ええ・・・」
「それじゃあリール、姉様の膝にいらっしゃい」
「お菓子と暖かい紅茶もあるわ、食べさせてあげる」
美女二人がそれぞれに誘惑する。
リールは姉の膝の上で、ローズにお菓子を貰い、二人にもみくちゃにされる。
これは、リーリール・バーンシュタインのハーレムエンドなのかもしれない。
大陸龍、ミドガルズオルム。
南の果て、世界最後の地、カザルから更に南へ向かい、冬以外が存在しない極寒の土地。
この母なる大地は、母なるミドガルズオルムの背中が九割を占める。
カザルの島より大きいそれは、カザルを見ながら眠る母の身じろぎで形が変わる。
その背には、山が生え、谷が形成されている厳しい環境下を動物たちが営む。
母は長く眠りについており、ここ数十年大陸の形は変わっていない。
大陸龍。
それは異名ではない、ただ、見たままを伝えられただけのもの。
四肢を持たず、頭と長い尻尾のような体、この大蛇は全ての龍の母。
そして、世界を見守る慈愛に満ちた母。
彼女は今、夢の中で世界を眺めていた。
世界の王、王達が集う。
円卓の会議、そこで一人目立つ男。
円卓を取り仕切る男は、皆の注目を集めた。
もうじき、来客がある、大陸龍ミドガルズオルムは、寝返りに動き。
大陸には谷が増え、山が形成された。
結局、三人は仲良くソファで団子になる。
「姉様・・・」
リールは寝ぼけながら、二人の姉に囲まれてうなされる。
余りある愛は、リールの許容範囲を超えて溢れ出る。
そんな光景をヒデヨシは、ただ暖かく見ていた。
「結局、疲れてみんな寝てしまったか」
二人はしばらくリールを取り合い、ヒデヨシを巻き込んでさらなる騒動をもたらした。
ヒデヨシは、今までにない自分の感情を少しだけ自覚する。
私は、この子達のためにも平和な世界を目指すべきだ。
この優しい子供達こそが、次世代の平和を維持してくれるだろう。
続きが気になる時は、応援の意味も込めてブックマークや感想など頂ければ、モチベーションにつながります。




