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The way to the kings  作者: 使徒澤さるふ
第一章 グリムウェル編
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第三十五話 〜グリムウェルの冬〜

 炎が走る。とは言い難い、火の粉、もしくは火花。


地を這う火は、藁の柱に当たらずに、途中で勢いを失い消える。


「当たる、まで行かないものだな・・・」


ヒデヨシは、自身の手より放たれた火が、的へ届かない事に拳を握りしめた。


「致し方ありませんよ、ヒデヨシ様の魔力は国一番の魔導師並ですが、これまで訓練もろくにしておりませんからね」


「魔熱石も無しに、火を走らせるだけでも相当なものです」


ロイは称賛し、ヒデヨシへの尊敬を忘れずに付け足す。


「ロイ、ようやく魔法を学べる余裕が出来た」


「それに、ロイから学べるのはそう機会がある事ではない」


「そんな、僕の方こそ、これほどまでにお時間がかかってしまい申し訳ございません」


ロイは、お詫びとともに一礼した。


「しかし、魔法とはわけのわからない超常現象かと思っていたが」


「しっかりとした技術体系と理論による自然現象なのだな」


「殆どはカザルのアザゼル様と、大魔道士様が作った技術で、我々はそれを利用しています」


「例えば魔石は術式を刻み固定化する事で、術式を本人が唱える必要がなくなる道具です」


「術式の処理は魔石に任せて、術者は魔力の使用にのみ集中できるのは効率的で良い」


「ただ、それでは術式への理解が進みませんので、術式の構築と発動の難しさを実践頂いたわけです」


「ロイはやはり良い仕事をするな」


「滅相もございません、ヒデヨシ様であれば、必ずご理解されると思っておりました」


「百聞は一見にしかずという言葉がある、やはり実践に勝るものはない」


ヒデヨシは腕を構え、術の構築を始めていく。


手元では松明のような大きめの火を出すことができる。


だが、手を離れた途端に火の勢いは火の粉にまで急減していく。


「ぐっ」


それを見て、ヒデヨシが声を漏らす。


何度やっても変わらない光景、体を離して術を維持することの難しさ。


これが、グリムウェルに魔導師が十人程度しかいないということの最大の理由。


魔法とは、高度な知識と技術を要する、この世界最難の学問なのだ。



 グリムウェル領主、ローレンタールの邸。


ルシアは、変わらぬ綺麗な所作で紅茶を入れる。


「ありがとうルシア」


「お茶菓子も焼いたばかりのものです、お早めにどうぞ」


相変わらずあまり表情を変えず、その所作は美しさを感じさせる。


「しかしロイよ、今だから言うが、私は傀儡としてお前に使い潰されると思っていたぞ」


「もっと私と同類の、悪どい政治家だと思っていたが実際はどうだ」


「愛妻家で子煩悩、貴族の傲慢さが薄く、領民からの信頼も厚い」


ロイは、紅茶に一口付けてその話に付け加える。


「僕は今でも、ヒデヨシ様は僕と同類だと思っていますよ」


「それに、召喚当時、場合によってはそうするべきだと考えていました」


「私も同じ考えで、洗脳や制限をかける魔法を事前に用意するだろうな」


「召喚の術式には、対象を指定して召喚が行えない欠点があるようだからな」


ロイは、黙って笑みを浮かべた。


「まだわからないことが多いが、あくまでも理想の人物像を設定し、それに合わせて他世界を検索する」


「検索条件から一番近いものを、強制的にこの世界へ呼び寄せるのが召喚術」


「ヒデヨシ様は、僕の検索条件に一致した方ですが、それでもどのような方が来るかは賭けです」


「召喚石も使い捨てな古代技術ですので、召喚に至ったのは運が良かったとしか言えません」


「もし話しが通じない人物だった場合、拘束と軟禁も視野に入れていました」


「ですから、本当にヒデヨシ様で良かったと心より思っております」


ロイは優しい笑みを浮かべ、改めてローズと親子で有ることを認識させた。


とても親子には見えなかった二人は、驚くほどに良く似た親子だった。


人は、第一印象がその殆どを決めてしまうが、それだけで全てではない。


ヒデヨシは少し、自分が過去に出会った者達の初対面を思い出していた。


「さて、今日はもう予定も無い、何局か打とうかロイ」


「良いですね、ぜひラボの新戦術を見せて頂きたい」


「リールに教えてもらった戦術を試してやろう」


テーブルの上に将棋盤が置かれる、ルシアは予め、この展開を予想して準備をしていた。



 クロストは、冬だというのに活気に湧いていた。


交易路は、クロストの高い技術力にはプラス方向にのみ働いたのだ。


技術力に投資して、領内の改善を主導したオーガスト・レイヴンクロスト。


高い技術力を持つに至った頃には、密かな軍拡を模索していた。


エドガー・ワイマーク様が世界を支配する事は明らかなのだ。


戦地への輸送を賜った際、大地を割り、天を割く一人の男を見た。


比喩にすらならないその圧倒的な強さ。


カザルの勇猛な強者は、部隊に向けて放った斬撃に巻き込まれて死んでいた。


どれほど前線が押されようとも、結局はエドガー様を攻略できる事は無い。


アレはもう人と同じ領域にいる方ではない。


疑う理由すら無くジェロイ様を継承している方なのだ。


ジェロニアに対して忠誠心を見せておかなければ、この国は滅びる。


伯爵は一人、拳を机に叩きつけた。


「証拠を探さなければ・・・」


ジェロニアへとの連絡経路は出来た。


低品質なジェロニア商品を大量に買わされたが、今はそれを補う儲けがある。


後は証拠なのだ、召喚を裏付ける決定的な証拠。


証拠のない妄言では、利益も見込めないジェロニアは動いてはくれん。


「まてよ」


「召喚は簡単な術ではない、綿密な計画と召喚石の調達」


「計画書や召喚石の入手についての情報がどこかにある」


「国の魔導師を当たってみるか・・・」


オーガスト伯爵は笑う、確実に進んでいく計画を喜びを持って迎えているのだ。

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