第三十一話 〜報われぬ相思相愛〜
朝が来た、訓練所近くのレオナの自室で。
ヒデヨシとレオナは、同じベッドで朝を迎え、そして夢からさめた。
「レオナ、すまない」
「その、あたしの方こそ申し訳ありませんでした」
「君が謝るような事じゃない」
「あたしはただヒデヨシ様の助けになりたくて」
「そしたらあたしの事を求めてくれたのが、すごく嬉しくて」
「良くないことだってわかってました、でも・・・」
「ローズマリー様には、皆にも、誰にも言いません」
「あたしはヒデヨシ様の事が好きだけど」
「ヒデヨシ様は、ローズマリー様の隣にいるときが一番です」
ヒデヨシが、まだ外へ出る準備もしていないレオナの肩を取る。
「・・・」
ヒデヨシは、ただレオナを引き寄せて抱きしめた。
レオナはただそれに答え、ヒデヨシの肩甲骨を触る。
「ヒデヨシ様は気がついて無かったのかもしれませんが」
「ローズマリー様と話しているときが、貴方は一番優しい表情をしています」
「だから、ヒデヨシ様にはあたしの事を愛してほしくない」
「レオナ・・・、本当にすまない」
「昨日の事はきっと夢です、あたしも、ヒデヨシ様も夢を見ていました」
「だから、これが最後です・・・」
それを最後に、二人の口は封じられた、互いの唇によって。
穏やかな日差し、冬の隙間を照らす。
すっかり冬毛と化したリーリール・バーンシュタイン。
アクアマリン・バーンシュタインの尻尾も、冬毛となって大きくなっていた。
アクアは、丁寧にリールの毛並みにブラシを入れていく。
「んふふっ、ねっえっ様〜」
リールは姉の膝の上で、沢山の抜け毛とともに愛を撒き散らしていた。
愛に溢れたリールを、愛に飢えたアクアが抱きしめる。
「リール、貴方をこうしていると落ち着くわ」
リールは抱かれるままではなく、アクアの異変に素早く気がついた。
「何かあったのですか、姉様」
上から覆いかぶさるアクアを、リールは下から覗き上げた。
「何も無かったわ、何も無かったからリールが恋しいの・・・」
そう言ってアクアは、リールの冬毛に顔を埋める。
リールはしっかりとした意志で、姉への愛を証明したがる。
「僕は姉様の事が大好きです、だから・・・、ずっとこうしていたいです」
「うん・・・、大好きよリール」
二人はそうして、目を閉じた。
「その、誘っていただいてありがとうございます、ローズ様」
ラボを歩く美女二人、赤のアクアマン、青のローズマリー。
「アクア様の事が少し心配になりまして、お元気が無いようでしたので・・・」
「ローズ様・・・、わたくし、振られてしまいました・・・」
アクアが、うつむいたままローズの袖を掴む。
「ヒデヨシ様ですか」
「はい・・・、その、出し抜くような事をしておいて、勝手に振られて」
「わたくしがどれほど愛を語っても、ヒデヨシ様からは愛も嫌悪も何も返ってきませんでした」
「ただ興味なくかわされ、優しく説かれてしまいました」
「バカみたいですよね、笑って頂いても良いですわ」
「笑うなんて、わたくしも皆と同じようにヒデヨシ様に優しくされているだけの、ただの人です」
アクアの、自信を失った顔がローズにも見えた。
「・・・ローズ様も、気づいているのですね、ヒデヨシ様の優しさが愛では無いということを」
「やはり、アクア様も気が付かれたのですね、ではまだ振られたわけではありませんよ」
ローズが、悲しみを込めた目でアクアの手を取る。
「ヒデヨシ様は、自分のことを孤独だと思っています」
「でも、それはしょうがないことで、ヒデヨシ様は身よりも友人も居ない状態でグリムウェルに放り出されました」
「何一つ頼るものが無い中、一から信頼と実績を積んでいきました」
「ヒデヨシ様は、見捨てられない為に周りの全てに優しくしているのだと思います」
「だからヒデヨシ様は、自分の優しさを偽物だと、利己的な優しさだと思っています」
「そんな・・・」
アクアは唾を飲み込み、その目を大きく見開く。
「そんな当たり前な、誰だって自分の利益のためにやっている事だわ」
「はい、仲良くしたい、信頼されたい、印象を良くして取引を良いものにしたい、誰だって同じです」
「でも、わたくし達を騙しているように感じてしまったのでしょう」
「罪の意識で、偽物の優しさを、本当の自分を知られることを極度に恐れています」
「でも、その罪はヒデヨシ様の中にしかありません」
「皆、ヒデヨシ様の優しさに救われ、ヒデヨシ様の力になりたいと思い、懸命に働いているのです」
「誰一人、ヒデヨシ様の優しさを罪だと思っている者はおりません」
「だから、ヒデヨシ様が自分の罪を許せない限り、わたくし達はスタートラインに立てないのです」
アクアが少し、いつもの表情に戻る。
「ヒデヨシ様の優しさには愛がない、でも違和感があった」
「あれはきっと恐れだったんだわ、本当の自分を知られる事への恐れ」
「わたくしが、そんなところへ入り込もうとするから、嫌われるのも当然ね・・・」
いつものアクアに戻りかけた直前で、悲しみに支配された。
「嫌われてなんかいませんよ、アクア様の真っ直ぐな愛に戸惑っているだけです」
「わたくしは、アクア様の真っ直ぐな愛が羨ましいです」
ローズが、アクアの手をにぎる。
「わたくしは、アクア様のようになりたいと思っております」
「ローズ様・・・」
「アクア様の愛は、わたくしを助けてくれました」
「ジェロニアや諸侯とのパーティの時も、わたくしと手を繋いでくれたのはアクア様だけです」
「いつも人の前に立とうとする、アクア様を尊敬しております」
穏やかな笑みを浮かべるローズ、アクアはたまらずその胸に飛び込んでしまった、まるで弟のように。
「ごめんなさい、でもお願い」
「はい・・・」
二人はしっかりと抱き合う、互いが互いをある意味深く愛していた。
互いに愛を知る、その使い方が大きく違いつつも、互いに尊敬の念を持っている。
相思相愛、どれほどに愛が深くとも、これもきっと恋ではない。
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