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The way to the kings  作者: 使徒澤さるふ
第一章 グリムウェル編
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第三十話 〜三井藤吉郎〜

 三井藤吉郎。


幼少の頃から、手のかかる兄とは対象的に、物分りの良い子供だった。


何かと騒動の中心にいる兄に、母はかかりきりだった。


藤吉郎はそれを良く理解し、母があまり自分に興味を持っていない事も気がついていた。


父に顔がよく似た私を。


父は、仕事に忙しく、あまり話した記憶すらない。


私を育てたのは家政婦の雪子さん。


父と雪子さんは不倫関係にあり、たびたび愛し合っていた。


雪子さんは、父と愛し合うために私を利用し、子供を可愛がる姿を父に見せたがった。


巧みに愛を利用する。


兄は、母の愛を利用して生きていた。


コネ入社でろくに出社もせず、大量の経費が問題になるたびに名前があがる。


刑事事件に発展するたびに、母がかばいもみ消された。


私はその兄の短絡な思考を利用し、追い詰め海外逃亡させるに至る。


刑務所に数年いれば済むような罪で、愚かな兄は二度と戻ってくる事は出来なくなった。


国際指名手配されていた兄は、潜伏先の国で病死したと聞いている。


母は、そんな私に恨み言を言い続けた挙げ句に精神病を患った。


父は雪子さんに子供が出来た事を知り、彼女は翌日から家政婦ではない他人となった。


相当な金を受け取り、裕福な暮らしをしていたと聞いている。


金が尽きるたびに、父のところを訪れる雪子さんを見た。


愛は、人を操る道具としての利用価値があると皆が教えてくれた。


人に優しくし、愛を模倣すれば私の利益となり、手足として働く部下が手に入る。


愛は、必ず人を破滅させる。


こんなものを信じる事は、私の利益にならない。


この考え方に基づき、利益のある人間関係を構築し、仕事は理論の正しさを証明した。


仕事だけが私を癒やしてくれる、今も昔も私は仕事に没頭し、仕事をするために生きている。


改善、開発、進歩、暮らしが発展するたびに、私は目標を達成し、次の仕事を新しい目標とした。


これは今でも変わることのない、本当の私。


本当の私に気づかれた時、私に向けられていた好意は反転する。


打算的で、自己の利益のみを追求した私の模倣品。


私は演じ続けなければならない。



アクアマリン・バーンシュタイン。


私には彼女の事がよくわからない。


私と彼女は同類であることは、言動からも行動からもよく見えてくる。


他人を操り、自身の幸福のために利用するその素養が見て取れる。


決定的に違うことは、彼女は愛を理由にしている事かもしれない。


私が生きる上で最も不要で、人を操る道具として利用価値を見出したもの。


彼女が愛を最大限に利用している事は、彼女自身が認めている。


だが、私が見てきた者達や私とは何かが違う。


同類であるはずなのに、決定的な何かが違うと感じている。


その違いがわからない以上、気を緩めるわけにはいかない。


彼女が私に強い愛を向ける理由、上手く操れない私に苛立ち、全力で誘惑しようとしているという事。


既成事実を作ってしまえば、それを武器に立ち回れると思っているのだろう。


彼女は、最も警戒するべきだ。



「あっ、ヒデヨシ様〜」


アリスタの酒場、レオナが散歩をしているヒデヨシに気が付き、声をかける。


「やあレオナ、もう仕事は終わったのかい」


食事ついでにエールをあおる、レオナにヒデヨシは声をかけた。


「はい、ヒデヨシ様もどうですか、今日は竜肉シチューですよ」


「竜肉か、アリスタのシチューは気になってしまうな」


そう言って、ヒデヨシはレオナの正面に座る。


「トマトとパスタが入ってて、すんごく美味しいですよ」


「じゃあ、私も一皿もらうよ」


そう言ってヒデヨシは、ウエイトレスをしていた犬顔の女性に注文をする。


「ヒデヨシ様も飲みましょ〜」


レオナは、ウエイトレスにエールを二つ追加させた。


「レオナ、私はあまりお酒を飲まない」


「え〜、辛い時くらいお酒でパーっと解消しましょうよ」


ヒデヨシの表情が、瞬間的にこわばりレオナを見た。


「なぜ、私が辛そうだと・・・」


「えっ・・・、なんでって言われても、ヒデヨシ様が辛いときの顔をしてたから」


「だから今日は忙しかったのかなって、あたしと飲んだら楽しくなるかなって・・・」


「そうか、ありがとうレオナ」


ヒデヨシは、いつもの温和な顔を思い出し、それに戻した。


「あんまり無理しないでくださいね、ヒデヨシ様」


レオナは長い尻尾を揺らしながら、心配そうにヒデヨシを見る。


犬人のウエイトレスは、シチューとエールを二つテーブルに置いた。


「レオナ・・・」


「無理して笑顔を作るのって辛いですよね」


「だから、そんな時くらい飲んで発散して忘れましょうよ」


レオナは、屈託のない笑顔でヒデヨシを包む。


ヒデヨシは、いつもの表情を維持出来ていなかった。


「大丈夫ですか・・・、そんなになるまで・・・、我慢しない方が良いです」


ヒデヨシを頬を、レオナの優しい手がつたう。


「ヒデヨシ様、もっとあたしを頼ってくださいよ」


「何を・・・言っている・・・」


「皆ヒデヨシ様に頼り切ってますし、やっぱり辛くないわけないですよね」


「あたしを救ってくれたヒデヨシ様が、そんな辛そうなのは見てられないです」


「何があったのかとかは、あたしは多分理解できないですけど・・・」


「あたし、頭悪くって普段全然ヒデヨシ様の役に立たないから」


「こんな時くらい、頼られたいって思うのは、変ですか・・・」


レオナは、自分の気持を上手く言葉にできず、困った顔でヒデヨシを見る。


「変なんかじゃない・・・、ありがとうレオナ」


「君は、いい女だな」


「えっ・・・」


レオナは急激に赤く染まり、尻尾はくねくねと動き回った。



 レオナは、ヒデヨシにあまり深くを聞く事をしなかった。


いつも通り日常の事を話し、酒を飲みながらただ会話を楽しんだ。


・・・。


愛を知るものは、愛を与えることができる。


では愛を知らないものは、なぜそれを知るに至るのか。


優しさは、時に愛を感じさせては受けたものを惑わす。


優しさを受けたものは、それを本物にしようとする。


そうやって、優しさは愛へと昇華していく事がある。


二人の手が重なる事に違和感はなく、ただ当たり前の事のようだった。


今夜の事も、ごく自然な成り行きのもの。


二人は激しく愛し合い、求め重なり合った。


互いが互いに、本物にしたいと強く望み、朝が来る。


現実の朝が。夢のような魔法が解ける朝が。


続きが気になる時は、応援の意味も込めてブックマークや感想など頂ければ、モチベーションにつながります。

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