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The way to the kings  作者: 使徒澤さるふ
第一章 グリムウェル編
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第二十八話 ~真の貴族~

 ジェロニア王城、王座の間。


オルカー・カールスハルトは、エリオノールとカールを引き連れ入室する。


「オルカー、その二人が適正者か」


「はい、まだエドガー様の修練を受けられませんが、お眼鏡に叶うと確信しております」


オルカーが、王に傅いて答える。


「エリオノール・バーンシュタインです」


「カール、ただのカールです」


赤黒い髪の美青年と、金髪の好青年がそれぞれ名を告げる。


素早く跪いて礼を尽くす美青年と、遅れて同じく跪く好青年。


カールは、貴族的な礼節にいまだに慣れていない。


「偽ることなく率直なものを聞きたい、この国をどう思う」


エドガーが、王座で足を組み尋ねる。


「私は、まだわかりません」


エリオノールが、まず話す。


「ジェロニアの貴族には、私の父から感じる正しい在り方を感じません」


「晩餐会にも参加しましたが、誰一人前線の事も、領民の事も話していません」


「私は、領民と家族を守るために鍛錬を積んでおります」


「領民が私を生かしてくれるからこそ、私は鍛錬に専念する事が出来ました」


「この国の貴族には共感出来ない事が多いですが、オルカー様は信じております」


「私はジェロニアでは無く、オルカー様について行きたいと思っています」


エリオノールの厳しい指摘、エドガーは黙って聞いていた。


「俺はジェロニア貴族の目が好きじゃありません」


「なんて言ったらいいのかわかんないんですが、皆楽しそうじゃないって思います」


「母さんは、いつも犬とか騎竜とかへ楽しそうに話しかけてたし」


「犬達はいつも大きな舌で俺をなめるんだけど、弟達はそれを喜んでました」


「ヒデヨシ様の周りも、いつも皆楽しそうに笑ってた」


「皆で考えて、暮らしが良くなって、アリスタのところで飲んでました」


「俺はそれが当たり前だと思ってたけど、この国にはそれが無いんです」


「俺は考えるのは無理なんで、暮らしを良くしてくれるヒデヨシ様と、楽しそうな皆を守りたい」


「俺は剣とか、力を付けるためにここにいます」


カールの目は、真っ直ぐにエドガーを見つめていた。


「エリオノール、カール、剣を抜け」


エドガーが、真新しいクレイモアを抜いて構える。


「エドガー様、まだ二人は・・・」


オルカーが、エドガーを制するように立つ。


「殺すつもりなどない」



 オルカーの、唾を飲み込む音が聞こえてしまった。


対峙する三人、その行く末を考え、オルカーにはエドガーの真意を測りかねていた。


二人の回答は、エドガー様の理想とする回答ではなかったように思える。


高潔な精神を感じるものの、それはジェロニアやエドガー様に向けられたものでは無い。


エドガー様は多くを語る人ではないが、二人をすでに認めているように感じる。


巨大剣を片手で持つエドガーの前に、エリオノールとカールが立ち構える。


「エリオ、合わせてくれ」


口火を切るのはカール、エリオノールは予想通りの言葉にただ体を動かした。


左右からの斬撃、エドガーはクレイモアで同時に弾く。


まるでナイフを扱うようにクレイモアが跳ねる。


二人の剣は、二人の実力により手から離れる事が無かった。


二人の剣戟は、その剣が使い物ならなくなるまで行われる。


エドガーは反撃をせず、全てをクレイモアで受ける。


受けるたびに、クレイモアの大きさと重さが交差点を破壊する。


終わりは、存外に早かった。


二人の望みなど叶うべくもなく、持ちこたえられず折れて先が飛ぶ。


「くっ、ダメかっ」


エリオノールは、折れた剣を見てその動きを止めた。


カールは、折れた剣をエドガーに投げ、拳を握りしめて間合いを詰める。


エドガーが笑い、折れた剣を躱してカールの肩に掌底を入れる。


軽く打たれた掌底で、カールは壁まで一直線に飛ぶ。


壁に激突したカールはそのまま跳ね、もんどり打って倒れた。


「げはっ」


胃の中を吐き出しながらも、カールは息をすることが出来ていた。


「カールっ」


エリオは、素早く駆け寄りカールの無事を確認する。


「げほっ、ごほっ」


「生きてるな、カール」


エドガーが、二人の元へ歩み寄る。


「お前たちは弱い、だが貴様らは騎士として、貴族としてふさわしい」


「オルカー、明日からは可能な限り俺も訓練に参加する」


オルカーが、エドガーに傅いて答える。


「ありがとうございます、エドガー様」



 エドガー・ワイマークは、自身が父ジェロイの遺志を次ぐものだと確信している。


そして、この世界に最も必要なものは圧倒的な力と、真の貴族による統治。


三百年間で真の貴族が腐敗し、豚に取って代わられていた。


涙ながらの食事をしていた父、その意味に気がついたのは死後。


今思えば二週間もの間、父は食事の時に涙を流していた。


なぜ、父は自身の殺害計画を受け入れてしまったのか。


毒入りの食事に気が付きながら、なぜそれを咎めようとしなかったのか。


俺は、父の判断は誤りだったと確信している。


父の涙は、豚どもに裏切られた事への悲しみだったに違いない。


悲しむのではなく、断罪し皆殺しにするべきだった。


私腹を肥やし、己の欲望のためにのみ父を殺害したのは明らかだったのだ。


自身の子孫に殺される悲しみは、父の心を砕いてしまったのだろう。


老いた父は、悲しみと絶望の中に沈み、王としての責務を放棄してしまった。


だからこそ、この俺が正しく遺志を継ぎ、継承せねばならない。

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