表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The way to the kings  作者: 使徒澤さるふ
第一章 グリムウェル編
28/71

第二十七話 ~ジェロニアの光と闇~

 冬でも雪が降らないジェロニア、カールスハルト邸。


カールが、鬼気迫る表情でオルカーに襲い掛かる。


巧みな連撃、それでもオルカーに届いているものは無い。


左手に持つ剣で躱し、いなされ、受けられる。


オルカーは、全ての剣戟を目で追っていた。


そう、全て追えている。


オルカーに訓練を受ける、同僚のワイスが呟く。


「すげえ・・・流石オルカー様だ・・・」


カールも、この圧倒的な力量差に気がついてしまった。


予測や癖を知った上で対処しているわけじゃない。


俺の動きを見て、ただそれに反応して対処してる。


これはもはや人間がやるべき動きではないだろう、特にカールに対してやれる事ではないはず。


カールの実力は、すでにオルカー配下の中ではほぼ最上位と言って良い。


予測や経験測で対応しても、ワイスでは受けるので精一杯。


目で追う事など到底無理な話しだった。


その剣戟を、オルカーはただ目で見てさばく。


見守る誰もが、圧倒的な実力差を感じていた。


自身とカールにも届くとは思えない差を感じるというのに、オルカーとカールはそれ以上に差を感じる。


ふと、防戦に徹していたオルカーが剣を振り上げた。


重い縦への一閃、刃を落とした訓練用にも関わらず、死を意識させるのに十分な速さ。


剣の交差点から火花が散る、カールの反応は間に合い、ななめに受けて刃が滑る。


オルカーは、予想外の反応に驚き、剣の勢いを制御しきる事が出来なかった。


カールは、そのわずかな隙に入り込む。


オルカーの剣に足をかけ、オルカーの首元に剣を当てる。


「カール、君の勝ちだ」


オルカーの宣言により、戦いの終わりが訪れた。


「全然、勝った気がしません、オルカー様」


カールは、率直な気持ちをそのまま言葉にした。


「そう言うなカール、君は強い」


オルカーは、自身の右手をカールに差し出す。


「まだまだです、絶対にハンデ無しで戦えるようになって見せますよ」


オルカーは、満足そうに笑う。


ハンデ戦、そうオルカーは右利きだ。


更に言うと、重装の手甲と足甲を付け、軽装のカールに対峙していた。


右手は一度も使用せず、開始位置もほとんど動いていない。


これが、世界の頂点と言われるエドガー、その斬撃を受け止めて生存している三名のうち一人。


エドガー親衛隊、オルカー・カールスハルトの実力。



 ジェロニア、ディルク領。


「た、助けてください、エドガー様」


オーメン・ディルク公爵、恐怖に歪み、助けを懇願する。


「仲間を吐かせろ、奴隷の購入先から追う」


「かしこまりました、どの程度拷問しますか」


「こいつの趣味だ、全部使ってやれ」


「そんなっ、待ってください、朕はそのような事をしておりません」


エドガーの従者、騎士の一人は侮蔑の表情でオーメン・ディルクを見た。


「ひっ」


騎士はオーメン公爵の足を切り、動きを抑制する。


「あっ、血、血がっ、朕をこのような目にあわすとはっ」


「エドガー様、地下で見つかりました」


この場に走りこんできた騎士は、叫ぶ公爵を見もせずエドガーへ傅く。


「そうか、俺も行く」


「その・・・、あまり見て気持ちの良いものではございません」


「わかっている、案内しろ」


地下室、腐臭と血、臓物のにおいが充満する中、エドガーは無表情に進む。


一つ目の部屋、人間の標本が飾られている。


剥製は壁掛けとして使われ、模造の瞳がエドガーを見つめている。


内臓が瓶詰めに保存され、何かに使われているように思える。


二つ目の部屋、最も血が染みこみ、人の油が床を滑らせる。


数々の拷問道具、改良と改造を繰り返し、最も楽しめるように趣向が凝らされていた。


器具の中には取れなくなった髪の毛と、指の一部が貼りついている。


三つ目の部屋、怨嗟の声と懇願。


エドガーはただ、死を欲する部屋の者達を全て殺した。


人体実験の犠牲者達、内臓に手を加えられたもの、四肢に手を加えられたもの、開頭手術。


エドガーは、これらを救う方法が死であると判断した。


四つ目の部屋、生存者達。


人の足音に怯える彼らは、その足音の区別をしていなかった。


顔も表情も、部屋の者達は区別をしていないだろう。


彼らは等しく、全てに怯えているのだから。


「彼らはどうされますか」


「解放し、オーメンの犯罪を証言させろ」


「情報と証拠が出そろったら、オーメンをジェロニアで処刑する」


「サツラン、今日からお前はサツラン・ディルクと名乗れ」


「ここは貴様が統治しろ」


「はいっ、いやしかし男爵の私が諸侯を差し置いて・・・」


「三か月後に視察に来る、その時にある程度の結果を見せろ」


奴隷商の噂から、ようやくオーメン・ディルク公爵の処断に至る。


密かに拷問を趣味としていた貴族は多いが、公爵家が捕らえられるなど異例。


ジェロニア建国以来初の、公爵家当主の処刑。


それは、三週間後に行われた。



 エドガー・ワイマーク。


選定を急がなくてはならない。


俺が選んだ者が統治する世界、国主や領主の適正を持つ者達が足りない。


役にも立たず、肥え太る連中のすげ替えが全く進んでいない。


妙に政治に優れ、徒党を組み始めた事で更に遅れ始めた。


カザルとの戦線も後退し続け、このままでは間に合わなくなる。


世界各国の統治者は俺が選ばなくてはならない、他の誰にも任せるべきではない。


アザゼル様は捕らえ、俺の考えを理解して頂く必要がある。


そのためにもカザルまで前線を押し上げねばならないのだが・・・。


豚どもを前線に送る方法があれば良いのだが、上手くいかないまま勇猛な愛国者が死んでいく。


高みの力を得られるものは、必ず高潔な精神を持つ。


高みの力を授ける時間が無く、無為に高潔なる者共を失う。


エドガーは、怒りに任せ、大きな柱を砕いた。


「エドガー様、オルカー・カールスハルト、参上いたしました」


「入れ」


俺の力を与えるにふさわしい高潔なる者達の選定、より一層急がなければならない。

続きが気になる時は、応援の意味も込めてブックマークや感想など頂ければ、モチベーションにつながります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ