第二十五話 ~氷のアザゼル~
カザルには、世界で一番最初に冬が来る。
この極寒には白く美しい城塞が良く似合う。
カザル本国、荘厳な城の主はアザゼル、白銀の美女。
この世界の言葉ではないが、アルビノと呼ばれる特異体質は全身を白へ統一する。
鬼と呼ばれる、世界一強靭な肉体を持って生まれる少数種族。
アザゼルは、その中で異質な魔力を持って生まれた。
幼少期にはすでに大人を軽くあしらい、とある魔導士へ弟子入りしてからは並ぶ者さえいなくなる。
アニー・アッシュファフロム・アザゼル。
世界最強の魔導士。
「アザゼル様、最前線の報告を致します」
「ああ、いいよ別に、好きにやってくれれば」
アザゼルは、特に興味を持たず、皿のブドウを一つ取る。
「しかしアザゼル様・・・」
「別にあなた達で十分制圧できるでしょう」
「それは、そうなのですが・・・我々はアザゼル様の為にも王を名乗って頂きたいのです」
「あんた達はそればっかりだね、まあいいけど」
「必ずや世界を魔力で満たし、アザゼル様に王として君臨して頂く、というのが皆の総意です」
「あたしはここの生活を気に入ってる、いつもそう言ってる」
蝙蝠のような翼を持った二本角の魔人は、アザゼルに跪いて話す。
「それでも、我々はアザゼル様の自由が奪われている事に我慢がならんのです」
「これは誰の責任でもない、あたしの力が問題だし、別にそれで君たちが動く必要は無いよ」
「強大すぎる魔力が原因でカザルを出られないなど、これほどに理不尽な事がありましょうか」
「それが魔力の法則だもの、濃度はなるべく一定になろうとする」
「大陸龍ミドガルズオルム様が居るからだと思うけど、カザルは特別魔力が濃い」
「ジェロニアとかだと、あたしの魔力が散ってしまって維持も出来ないし」
「あたしが住めるようにするなんて、数十年はかかっちゃうのよ」
「世界の全てを制圧すれば、世界を魔力で満たす事が叶うと考えております」
「そう、期待して待っているわ、サツォガルオ」
アザゼルの自室、城の最上階で臣下からの愛に溢れた最高級の部屋。
「ああ、本当どうしたらいいんだろ」
「あたし、別に出られない事を不便に思ってないんだけどな~」
「なんとかならないの、ミニちゃん」
「ミニちゃんはやめてください」
竜人種の女性、鱗に覆われ翼を持つ、美しいと言える緑の体。
「ちっちゃいミドガルズ様なんだから、ミニガルズオルムのミニちゃん」
「かわいいと思うのに」
「母から見たら世界の全てがミニです」
「一応私にはヴェーゼ・ミドガルズオルムと名前があります」
「齢二千年を超える私にミニちゃんはどうかと思いますよ」
「ミニちゃんも、世界を魔力で満たすべきだと思ってるの」
「そんなこと、母がやっても百年はかかるような大事業です」
「私はアニーが王になる事には賛成ですが、現実味の無い事業にはコメントできません」
「でもまあ、あの子達はやれると思ってるしさ」
「皆、あなたを心から尊敬し、崇拝しているのです」
「この国を支える全ての魔法は、あなたが作り上げたのですから、それも当然なのですが」
「いやまーね、あたしも伊達に長生きしてないっつーか」
アザゼルは、照れて頭をかく。
「まあ、ほとんどがお師匠様の功績ですけれど」
「ミニちゃん、そういうところ意地悪だと私は思うな」
「私はミニちゃんではありません」
「自分の半分程度しか生きていない小娘に、ちゃん付けされるのは嫌です」
「またまたそんなこと言って~、本当はうれしい癖に~」
ヴェーゼは深くため息をつき、アザゼルと目を合わせる。
「アニー、もう止められない事はわかっているでしょう」
「あなたの意思とは無関係に、あなたの為に世界は統一される」
「ええ、そうね」
「あなたが、統一された世界の王にならなければいけない」
「うん、そうなると思う」
「エドガーとも決着は付けないといけない日が来るわ」
アザゼルはその言葉を受けて、ワインをあおる。
「・・・小さい頃のエドガーは可愛くてね、ちっちゃい手であたしの手を引いてさ」
「あたしの事を迎えに行くって、僕と結婚してくださいって息巻いちゃって、真っ直ぐ私を見るの」
「あたしに、あの子を殺せると思う・・・」
「殺せないでしょうね、こうなってしまったのは、残念です」
「そうね・・・」
サツォガルオが前線の報告を聞く。
「サツォガルオ様、徐々にではございますが、ジェロニアからの離反が出ております」
「エドガーの脅威に対抗しうると、少しずつ認識され始めたという事ですね」
「ええ、内地にも諜報部隊を入れており、こちらも報告が来ております」
「なんでも、グリムウェルが農業研究を熱心に行っているとか」
「そちらで改良されたイモ類を手に入れる事が出来まして」
「ほう、そのイモはカザルでも栽培できそうなのか」
「カザルでの栽培も出来なくはないと思います、痩せた土地でも良く育つと評判がありました」
「ただ、カザルの寒さに対応できるのかが不明です」
「グリムウェルとカザルでは気候が違い過ぎるからな・・・」
「もし、グリムウェルの様な力が我々にあればよいのだが」
「それで、実はグリムウェル国内の領主から接触がございまして」
「イモもその使者から提供されました」
「わかった、前線のマクベスに対応させろ、出来るかぎりグリムウェルとの親交を深めるように」
「了解いたしました、マクベス様にお伝えします」
カザルに雪が降る、これからカザルはアザゼルの様に白へ統一されていくのだ。
カザルの食糧事情は世界一厳しい、サツォガルオはグリムウェルがこれを改善できるのではと、考えていた。
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