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The way to the kings  作者: 使徒澤さるふ
第一章 グリムウェル編
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第二十二話 ~ラボ、遊びの大嵐~

 ▲7六歩。


ラボではとんでもない事がおこっていた。


ラボで学校を開き、教師をしていたブレサックから言われた事。


教育の一環として、遊べて勉強になるものは無いかと。


そういえば将棋を久しく指していないな・・・。


タダンに作らせ、ブレサックと数局指して満足した。


元々、将棋を熱心に取り組んでいたわけではない。


戦術もほとんど知らず、覚えていた戦術を試し打ちしただけ。


始まりはこんなもの。


あの日から一か月程度、今のラボで将棋を知らないものは多分居ない。


▲2六歩。


歴史ある、芸術的遊具だと言う事を失念していた。


▲4八銀。


底の知れない奥深さ、指せば指すほど別の戦術が有ると知る。


▲5六歩。


ブレサックの教室ではあっという間に広まる。


▲6八玉。


リールが熱中しないわけもない。


▲7八玉。


意外にも、ローズが熱中した。


▲5八金右。


将棋盤と棋譜は飛ぶように売れ、タダンは大儲けだ。


▲5七銀。


アリスタの酒場では、繁忙時間に将棋は禁止する張り紙が出た。


▲7七角。


グリムウェルの商品カタログに、将棋と棋譜を乗せたのが四日前。


▲8八玉。


私が知っていた戦術は穴熊が一つ。


▲9八香。


居飛車と振り飛車。


▲9九玉。


手順が正しいかは知らないが、四間飛車と中飛車。


▲8八銀。


「リール、あまり熱中しすぎないように」


一人で穴熊を組んでいたリールに、ヒデヨシは声をかける。


「基本的な動きはこれならば、右でも応用して最短で王を右下へ・・・」


リールからの反応は無い。


「リール、もうそろそろ寝なさい」


「だけれど、早仕掛けされて組み切れなかった時の対処方法が難しい」


「リールっ」


リールの耳が跳ねて、ヒデヨシの存在に気がついた。


「はいっ、ヒデヨシ様、囲いは防御に優れていますが、時間がかかるのが難点です」


「趣味の研究も良いが、学術書の執筆を忘れないように」


「はいっ、かしこまりました」


リールの元気な返事、きっと頭には入っていない。


「そうか、端囲いほどじゃないけど、途中の場所で防御を固めてしまうのも良いかも」


「ヒデヨシ様は、何か他に戦術をご存じないのですか」


「ああ、私はあまり将棋に熱心では無くてね」


昔は棋士の友人も居たが、将棋に深くかかわったわけではない。


私は、私が持つ知識しかこの世界に持っては来ることが出来なかった。


私は需要を掘り起こしたり、販売方法などにはそれなりの知識がある。


しかし、修めた経済学も時代状況が違いすぎて、そのまま使う事も出来ない。


銃や車も作りたいと思ったが、正確な構造を知らず、この世界では技術的にも困難だった。


技術や制作は専門外で、うすぼんやりとした概要を知るに留まる。


もし、この世界で銃や弾丸、車を乗り回す事が出来れば、楽が出来ただろうな。


召喚は山を切るほどの力が得られるのだ、元の世界にある知識の全てを得るとか。


それくらいの事をやって、この世界へ召喚されるくらいの待遇はあっても良いだろう。


私は、神を信じては居ないが、神に待遇改善を要求したら聞き入れられると良いなと思う。


「うーん、これではローズ様の猛攻戦術を防ぐ手立てがありません」


「リール、そのローズが君の後ろで睨んでいるのだが」


「リール、夜更かししてると起きられなくなるわよ」


母に怒られている時の顔をしているリール。


私も怒られないうちに寝室へ行くとしよう。



 第一回、アリスタ杯。


酒場のアリスタ主催、優勝賞品は一週間の食事自由権。


この日、ラボで仕事をしてるものはほとんどいなかった。


ラボ住民の三分の一が参加者で、二分の一は観戦に屋台に賭けの胴元。


一番人気、ローズマリー。


新しい猛攻戦術がハマり、最も勝率が高い。


二番人気、リーリール。


堅実な防衛戦術家、守りが硬いが攻めが甘く、ローズマリーが天敵。


三番人気、ノード。


財務局長カシムの部下、バランス良く新戦術を取り入れ、対応力があるが得意戦術が無い。


アリスタの酒場と空き地では敷地が足りず、ヒデヨシ邸を全開放してまで開催された予選会。


三番人気のノードまでは、順調に予選を突破し、ほぼ前評判通りの実力者が勝ち上がった。


ちなみにレオナは一回戦でノードと当たり敗戦。


ヒデヨシはリーリールと当たり敗戦。


残り8名となったところで、最終トーナメントが出来上がった。


ローズマリー、リーリール、ブレサック、トールマン、ノード、モモ、覆面の貴公子、バドン。


「おい、ロイ、仕事は良いのか」


ヒデヨシが、冷めた目で覆面の貴公子に声をかける。


「どなた様でしょうか、僕はわけあって覆面をしておりますが、リリーにばれるとまずいわけではありません」


覆面からはみ出した金髪をなびかせ、覆面男がボロを出す。


「リリーアンヌ様には内緒なんだな・・・」


「ローズ様、今日こそ勝ちます」


「あらリール、囲いなんて作らせる気はないわよ」


自信満々なローズを見るのは、なかなか機会があるものではない。


謎の覆面は、露骨にローズを応援する姿勢を見せた。なんでやろうなあ・・・。


ヒデヨシが知る戦術は囲いを強化してから攻める、ラボの主流戦術は当然そうなった。


ローズはそこを崩すのではなく、作らせない戦術を開発。


角交換早仕掛け、最小限の防御体制だけを敷き、荒らしてミスを誘う。


状況に応じて、銀や金、飛車が突撃して攻め続ける。


対するは守りのリール。


囲い研究の第一人者、ヒデヨシのぼんやりした記憶から様々な囲いパターンを引き出す。


囲いが完成してからの守りの硬さは一級品で、受けきってから攻める。


全体をよく見た受けの広さが強みで、子供とは思えない冷静さを見せる。


この安定戦術から、ローズの囲いを作らせないと言う発想が生まれた。


ラボの頂上決戦が、決勝トーナメント一回戦で行われるという運命のいたずら。


アリスタの酒場特設将棋会場、会場は大盛り上がりで沸いていた。


決勝トーナメントは実況付きで、二人の指し手は五か所でトレースし、観客が見守る。


トレース盤の効果で、賭けた選手の行く末がしっかりわかる、大盛り上がり必至だった。


先手リール、▲7六歩。


いつも通りの左囲いを狙う一手。

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