第二十一話 ~王都ジェロニア~
貴族街。
ジェロニアには大きく、綺麗な貴族街があった。
美しい街並み、景観にもこだわり、細部も計画的に作られている。
風光明媚で知られる、ジェロニア貴族街。
「オルカー様、エリオノール、カール、参上いたしました」
貴族街の一画、オルカー・カールスハルト子爵に与えられた大きな邸宅。
子爵には、不釣り合いなほどに大きな敷地。
「二人とも、今日も訓練を開始しようか」
エリオノールは手慣れた敬礼を、カールは不慣れな敬礼でオルカーに答えた。
「他の者達はもう集まっているかな」
「ある程度集まっています、その、昨日お話しした彼ら以外ですが・・・」
「わかってはいたが、盗られてしまうのは防ぎようが無い・・・」
オルカーは、拳を握り唇を噛む。
「エドガー様に選ばれれば、ジェロニアの公爵並みに厚遇される」
「私達は、エドガー様に選ばれる可能性がある、と言う事ですか」
エリオノールが少し、眉をひそめた。
「君達はエドガー様直々の命令で集めた人材だ」
「親交を深め、取り込むことができれば必ず自分の利益になる」
「妙だとは思っていました、ジェロニアに来てからというもの」
「連日のようにパーティーの誘いがあり、先日は公爵家のご令嬢からでした」
「これが今のジェロニアなのだ・・・」
「皆がエドガー様に選ばれるために策をめぐらせている」
「公爵家からの招待は断る事が出来ない、エリザベート様への不敬ととらえられる」
「他の家はともかく、エリザベート様だけは断る事を許さない」
「エリザベート様のパーティーは、明日の夜です・・・」
「エリザベート様は、彼女は、我々にとって最も危険で恐れるべき人物だ」
「明日は私も同行しよう、出来る事は少ないが、行かないよりマシだろう」
「私はオルカー様を尊敬しているから、ここにいます」
「俺もです、オルカー様」
二人は、オルカーをしっかり見つめて敬意をしめす。
「ありがとう、エリオノール、カール」
「君たちの献身には感謝している」
「しかし、エリザベート様が欲しいと言えば、そうなる」
「それがジェロニアの公爵、エリザベート・ダーデン・ワイマーク様なんだ」
貴族街の朝は、穏やかで静寂だった。
人の流れはほとんどなく、時折犬車が通るのみ。
ジェロニアの朝、カールはラボの朝を懐かしく反芻していた。
静寂を切る。
オルカー邸には、騎士や兵士が集まり、日々訓練をする施設がある。
刃を落とした鉄剣を使い、実践的な訓練を連日行っていた。
エリオノールとカールもその中に居る。
そして、エリオノールとカールは互いに高め合うほどに、実力は拮抗していた。
一方が勝てば、翌日には負け、二連勝すれば三連敗する。
怪我はたえず、目の上を切って出血して、胸の打撲跡はまだ残り、腕に包帯を巻いていた。
二人は常に本気で模擬戦をし、同僚達を驚かせる。
これほどの熱を持つものが他に居ない。
最初の熱源はカールにあった、強くなりたいその想い。
熱に中てられたエリオノールは、原初の想いを取り戻し熱源の一つとなった。
二人の成長は恐ろしいほどに早い。
オルカーの指導を素早く吸収し、オルカーの戦いからヒントを得る。
互いが互いに負ける事を嫌い、手の内を見せた翌日には手が増える。
そんな事を繰り返し、二人の実力はオルカー直属の騎士でも勝てないのではとの噂。
今日の初戦は、エリオノールがカールの剣を止め、勝利をおさめた。
「エリオノールっ、もう一本だ」
カールが高らかに声を上げる。
二人の敬称は、すぐに無くなった。
バーンシュタイン伯爵家、次男エリオノール、父よりロートレク男爵位を名乗る事も許されている。
カゼ村のカール、グリムウェル領内の牧畜村に住んでいた平民、家名は無い。
二人が友人になるのに、それほどの時間はかからなかった。
同じような目的、意見も良く合い、実力も拮抗している。
エリオノールは、カールを尊敬に値する人物だと評価した。
カールは、エリオノールこそが正しい騎士の在り方だと思っている。
オルカーは、この関係が長く続く事が、エドガー様にとって最良だと判断している。
この二人は良い騎士となり、エドガー様に選ばれるだろう。
エドガー様が仰る、真の貴族と騎士、素養を持つ人材を集めエドガー様へ献上する。
ジェロニア貴族街の夜は騒がしい。
大きな屋敷を持つ公爵、侯爵や伯爵は、連日のパーティーに忙しかった。
パーティーこそが権力を示すものであり、開けないのは衰退を意味する。
出席についても同様の意味。
オルカーのような新参者が出席を拒否するなど、あってはならない事。
エドガー様より、中立の立場に立つよう言い聞かせられていて、個人的な主催のパーティーは断っている。
普段は、そのように欠席の言い訳をしていた。
オルカー・カールスハルトは最前線の子爵家長男。
戦況報告と物資調達のためにジェロニアへ赴き、姉がジェロニア領内伯爵に攫われる。
オルカーは、伯爵への侮辱罪で貴族位のはく奪を言い渡され、姉は奴隷として買取る算段となった。
戦況報告の際、現状を正しく認識していない伯爵をいさめ、物資の懇願をした事が侮辱罪に抵触。
だが、実態は少し違った。
報告を聞いていた伯爵は、姉の体が目当てで、ただ自分の物にしたいだけだった。
懇意にしていた娼婦と顔が似ていて、性欲に刺さった事が最大の理由。
姉が凌辱され、自身も独房で死を待っていた頃、エドガー様により伯爵は討伐された。
私は、エドガー様よりテラデイン伯爵の爵位を継ぐ事を命じられたが。
未だにその名を名乗った事は無い。
姉は、頭のつぶれた伯爵の死体を細かく刻み、便所へ投げ捨てている。
先日、姉は子供を産んだ。
子供を愛しているそぶりを見せているが、いつ殺してしまうのかと心配しない日は無い。
父のトーマス・カールスハルト子爵は、私が投獄中に戦死・・・。
記録上は戦死として頂いたのは、父の名誉を守りたかったからだ。
物資不足で、餓死寸前の兵をまとめられず、部下と盗賊行為をしていたところを殺害されたと聞いている。
私の最も敬愛していた父の最後は盗賊、村の野菜を荒らし、金品強奪の現行犯。
姉と私を救ってくれた恩、そして姉は私が守らなければならない。
この国を正す、エドガー様こそが最も正しい行いをしている。
このオルカー・カールスハルトは、エドガー様のために全力を、毛の一本も残さず忠義を尽くす。
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