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The way to the kings  作者: 使徒澤さるふ
第一章 グリムウェル編
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第十九話 ~それぞれの想い~

 「このわたくしは、すべてを理解いたしましたわ」


アクアマリンの高らかな声が、辺りに響く。


やってしまった。そう、ローズはやってしまったのだ。


伯爵令嬢が平民に仕えるなど、世界の理から逸脱している。


「ローズマリー様、貴女はいち早くヒデヨシ様の才覚に気がついたわけでございますね」


アクアマリンは、高らかに笑いながら話しを続ける。


「未来の旦那様とするべく、陰ながらの支援で準爵へと押し上げ、ゆくゆくは男爵へ」


「あ・・・、あの・・・、えっと、未来の旦那様・・・」


言葉の一つ毎に、ローズの感情が目まぐるしく流れて消える。


「ローレンタール様に結婚を認めて頂くには、それしかありませんものね」


「えっ、ああ、はい」


ローズはこんらんしている。


「ですが、所詮は貴女の片思いです」


「わたくしは、ヒデヨシ様に愛して頂ける資質がございます」


「必ず未来の旦那様を虜にしてみせますわ」


「ダメですっ」


「絶対にダメですっ」


ローズはしょうきにもどった。


「ダメなんです・・・」



 世界は三つに分かたれた、多分ラボの中で、きっとこの辺が。


女性の闘いに巻き込まれ、もみくちゃにされたヒデヨシ。


ようやく、自室の書斎で一人の時を過ごしていた。


アクアマリン・バーンシュタイン。


私と同じ匂いがする才女。


貴族の社交界で悪意に晒されて来たのだろう。


あれほどの好意を向けられたのは驚いたが、状況毎に対処している柔軟な思考。


一見、直線だけに見える立ち回りだが、実態がつかめない蜘蛛の糸。


地位の利用、現状での立ち位置把握、今後への布石、場の動きの全てを彼女が支配していた。


最後のあの言葉も、裏に気が付いた上でそらした可能性すら考慮するべきだ。


恐ろしい女だが、この状況は利用するべきだろう。


結婚については慎重になるべきだが、この人脈は大きい。


・・・ローズの事も、真剣に考えなければならないな。


このまま何も知らぬまま、私の事を慕ってくれることが理想だが。


私の本性を知れば、きっと離れてしまうだろう・・・。


どちらとの婚約がより私の利益になるか、こんな打算で愛を測る。


このような私を、彼女に悟られるわけにはいかない。



ローズの私室、わたくしはようやく一人になる事が出来た。


顔から火が出るような思いだった。


明日から、ヒデヨシ様にどのような顔でお会いすればよいのだろう。


幸いにも、アクアマリン様は気が付きませんでしたが、ヒデヨシ様が召喚者と知られる危険のあるミス。


それに、改めて気付かされたわたくしの気持ち。


わたくしだけに向けられていない事を理解しても、それでも期待をしている自分。


ヒデヨシ様に愛されたい、他の女性と親しくしている姿を見るたびに嫌な部分が出てしまう。


アクアマリン様のように、真っ直ぐな愛が羨ましい。


はっきりとした性格故、嫌われる事も多い方ですが、わたくしはなぜか魅かれてしまう。


それでも、ここだけは譲るわけにはいきません。


泣かされ、助けられ、ともに笑ったわたくしの数少ない友人。


アクアマリン様、わたくしにはヒデヨシ様に愛して頂ける自信はありません。


だからわたくしは、本当のヒデヨシ様に触れて、ともに分かち合いたいと思います。



 迎賓館。


急造だが、ラボには貴族の来客が多すぎた事もあり、体裁を整えた迎賓館が建てられた。


伯爵ともなれば、粗末な小屋といえるものだが、ともかくバーンシュタイン一家はここに滞在する。


その一室で、アクアマリンは一人考えていた。


ヒデヨシ・ハシバ。


周辺村の青年ということでしたが、やはりどこに才能が眠っているかわからないものですね。


ローズマリーも、このわたくしに隠しておきたいわけですわ。


あの、歴戦の貴族を相手にしている時を思い出すような立ち振る舞い。


きっとわたくしと同類。


そんな方を発掘してくださるなんて、ローズマリーには感謝しかありません。


ヒデヨシ様、貴方はどちらがお好みなのかしら。


わたくしの全てを利用し、ヒデヨシ様を屈服させ虜にする。


力及ばずに、わたくしが屈服されるのも好ましい。


わたくしはどちらでも構いません、どちらもわたくしの望み通りですもの。


・・・。


それにしても、ローズマリーのあの表情。


・・・、・・・・・・。


その表情は最上の笑顔となり、目撃されれば人々を恐怖に陥れただろう。


笑顔は本来攻撃的、威圧をもたらすもの、あながち間違いでは無いのかもしれない。


なんて、可愛らしいのでしょうか。


アクアマリンは火照った体を自身で抱きしめた。


ヒデヨシ様も良いのですが、ローズマリーも同じくらい愛おしい。


貴女は、どうしていつもわたくしの心を惑わすのですか。


なぜ、いつもその色香でわたくしを誘惑しようと企むのですか。


・・・いえ、わかっております。貴女が無自覚に色香を振りまいている事を。


可愛い顔が見たくて、ついつい困らせてしまいます。


困った顔も、そのくせ芯があるところも、白く美しい肌も、あの笑顔も。


わたくしのものにしたい。


あの時もしも、ローズマリーの唇を奪っていたら、どんな顔をしてくれたのでしょう。


わたくしは、よくぞあんなに可愛らしい状態のローズマリーを抱きしめずにいられたと。


自分自身を褒めたたえたい。


未来の旦那様を想い、耐えきる事が出来たわたくしを褒めて頂ける方がいれば良いのに。


そうだわ・・・、ヒデヨシ様をどこかの領主に据えてしまえば。


ヒデヨシ様の第一婦人、第二婦人として両方ともわたくしのものにできる。


アクアマリンの愛、歪んでいるという見方もあるだろう。


だが、当人にとっては純粋な欲望に根差した、真っ直ぐな愛なのだ。


愛ゆえに両方を手に入れたいと考え、その方法を模索する。


アクアマリン・バーンシュタインは真っ直ぐな信念のもと、願いを叶えるために行動する。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 独特の感性を持ったライバルの登場。 ローズ、ヒデヨシの関係がどうなるのか。 楽しみですね。 [一言] 更新頑張ってください!
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