第十八話 ~ライバル登場!?~
ラボにまた豪華な犬車が入っていく。
ヒデヨシ邸の玄関先、赤毛の美しい女性が、ふわふわの尻尾を揺らす。
「わたしのリール、母様はもう寂しくてたまらなかったわ」
リールとアリア伯爵夫人は、同じ形の大きな耳を動かしていた。
「お母様ー、僕もお会いしたかったです」
リールは、アリア伯爵夫人の豊満な胸の中へ飛び込んで甘える。
アリア伯爵夫人は、胸の中でリールを撫でまわし、その存在を確かめているようだった。
「ヒデヨシ殿、家族で押しかけてしまって申し訳ない」
「いえ、こちらこそリールを独占してしまい、アリア様には申し訳ないと思っておりました」
犬車の客車から、一人の美しい女性が地面へ降り立つ。
赤毛とルビーのような瞳、身に纏うドレスも赤を基調としている。
アリア伯爵夫人と同じ顔立ち、ふわふわの尻尾、違いは耳、彼女の耳は人間と同じところに付いていた。
「アクアマリン様」
ローズが驚きとともに、一声漏らす。
「ヒデヨシ殿、娘のアクアマリンだ、今回はどうしてもついて行きたいとせがまれてしまい」
アクアマリンは、父の話しを横に、綺麗な所作で礼を尽くす。
「貴方がヒデヨシ様ですね、わたくし、アクアマリン・バーンシュタインと申します」
「弟がお世話になっておりますわ」
強い意思を感じさせる眉、その笑みはリールの笑顔に少し似ている。
「はじめましてアクアマリン様、ヒデヨシ・ハシバです」
ローズには、何かを感じさせるものがあった、その正体はすぐにわかる。
「やはり、わたくしの思った通りの方ですわね」
「凛々しいお顔立ち、聡明さを感じる振る舞い、お父様、わたくし決めましたわ」
ダリス伯爵は、大きな手で顔を覆い、誰にも聞こえぬ声を出した。
だから連れて行きたくはなかったのだ・・・。
「ヒデヨシ・ハシバ様、わたくしと結婚してくださいませ」
アクアマリンは、ヒデヨシの手をすくい上げるように取る。
わざとらしく胸元が広がったドレス、抜け目なくヒデヨシが見下ろせるようにしていた。
「「はあっ」」
同じ声が、同時にいくつか上がった。
「アクアマリン様、急に何をおっしゃるのです」
最初に続きを言葉にしたのはヒデヨシ。
「そうですアクアマリン様、会って早々結婚などとっ」
続いたのはローズマリー。
「アクア・・・、お前と言うやつは・・・」
ダリス伯爵も驚愕の顔とともに、姿勢を崩した。
「急も何もございません、結婚までに愛を育めばよろしいのですわ」
「いや、そうではなく、私は先日準爵の爵位を与えられましたが」
「準爵の身分は平民です、伯爵令嬢のアクアマリン様が平民を婚約者に選ぶのは・・・」
「そんなもの、愛の障害にはなりえません」
「それに、ヒデヨシ様はきっとわたくしの事を愛してくださると自信もございます」
アクアマリンは、確信めいてドレスの胸元を確かめた。
その胸は豊満であった、男として抗うのは難しい。
「そうですわ、ヒデヨシ様をパトリック男爵の養子に致しましょう」
「アクア・・・、アクアっ、勝手に話を進めていくんじゃない」
ダリス伯爵は、ようやくいつも通りの姿勢に戻り、娘をいさめる。
「パトリックは姉様に逆らえないのですから、ヒデヨシ様を貴族にする良い方法ですわ」
名案を思い付いたアクアマリンは、手を叩いて満面の笑みを浮かべている。
この流れはどこかで見覚えがある、大きなリール、ああ兄妹だな・・・とヒデヨシは思う。
「この大馬鹿者っ、カレンに・・・パトリックにまで迷惑をかけようとするでないっ」
ダリス伯爵は限界を超え、拳を握りしめて娘を叱りつける。
「まあまあ、ダリス伯爵様」
「アクアマリン様、私を見初めて頂いたのはうれしく思います」
ヒデヨシは、アクアマリンを真っ直ぐ見て答えた。
「しかし結婚については、ダリス伯爵様も含め諸侯の印象もございます」
「くれぐれも慎重に考えて頂くようにお願いしたいと考えております」
「はいっ、わたくしはこの結婚を真剣に考えておりますわ」
アクアマリンは全てを跳ね除け、前へ進んでいく。
そしてリールの姉であるアクアマリンは、その手法も一枚上手だった。
再度胸元を強調し、その豊満を見せつける。
「ヒデヨシ様っ、何を見ているのですかっ」
ローズの機嫌が悪い、珍しく人を睨みつけ、ヒデヨシの固まる時間を動かした。
「いや、ローズ・・・、私はどうしたら良いかな・・・」
こちらも珍しい、ヒデヨシがローズに助けを求めて振り返る。
「知りませんっ」
アリスタの酒場、ランチが終わり、雇われ給仕の獣人娘がテーブルを片付けいる。
ヒデヨシ邸では、女の闘いが巻き起こっていた。
「アクアマリン様、ヒデヨシ様の腕を離してください」
ローズは、不機嫌全開でアクアマリンを引き剝がす。
抗うアクアマリンは、ヒデヨシの腕に豊満を絡み付ける。
リールはその様子を見て、ヒデヨシの逆手に絡み付き始めた。
「僕は、ヒデヨシ様がお兄様になるのは大歓迎です」
満面の笑みのリール、弟の応援を受けて、アクアマリンも同じ顔をする。
「まあヒデヨシ様、わたしの可愛い子供達に囲まれて、両手に花ですわね」
アリア伯爵夫人は、その光景を穏やかな目で見つめていた。
「アリア様も笑ってないで止めてくださいませ」
「ダリス様もです、アクアマリン様をおとめください」
「いやー、アクアはこうなるとだな・・・、難しいと言うかなんと言うか」
ダリス伯爵が、頭を掻きながら歯切れの悪い言葉を出す。
「あー、アクア、その・・・ヒデヨシ殿も困っている」
「ええ、アクアマリン様、私もまだ仕事が片付いておりませんでして・・・」
「アクアと呼んでくださいまし」
アクアマリンは、潤んだ瞳でヒデヨシの手を取る。
「アクアとお呼びくだされば、許してさしあげます」
「あ・・・、アクア様・・・、手を離して頂けますか」
「うふふ、呼び捨てでかまいませんのに、旦那様」
アクアマリンは、悪い笑みでローズマリーに目線をやる。
「旦那様は気が早いのではないですか、アクアマリン様」
テーブルを利用して大きな音を立てたローズ。
絡み付くアクアマリンを牽制するには、良い音が辺りに響く。
「あらローズマリー様、わたくしがヒデヨシ様をどう呼ぼうと、関係ありませんわ」
「関係あります、わたくしが許しません」
「あらあら、なぜローズマリー様の許しを得る必要があるのかしら」
「わたくしはヒデヨシ様に仕えておりますっ、わたくしの許可無くっ」
ローズの口は、ヒデヨシの手により塞がれた。
「ローズマリー様、その、逆です・・・、私が研究主任のローズマリー様をお手伝いしております」
ヒデヨシは、全てが苦しいと思いつつもアクアマリンを見る。
「ふ~ん、そういう事ですか・・・、これもわたくしの睨んだ通りですわね」
アクアマリンの不敵な笑み、きっとこの娘に弱みを握られるのは危険だ。
ローズマリーの表情を見たアクアマリンは、嗜虐心を刺激されて身震いしているようだった。
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