表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The way to the kings  作者: 使徒澤さるふ
第一章 グリムウェル編
17/71

第十六話 ~勇者と凶悪な侵略者~

 大狼達が、重たい鉄の塊を二台、森へと引いて来た。


圧縮空気砲、空気の圧力で発射する高威力の大砲。


風の魔法を使い空気を送り込み圧縮、命中精度は高いが発射に時間がかかりすぎるのが難点だった。


「ダリス伯爵様、念のため確認したいことがあります」


「ヴィンクスがガラデア領だった事はありますか」


「ヴィンクスは、ジェロイ様により国境を定められた時に作られた村だ」


「成り立ちからして、ガラデアからの入国審査を行うために作られている」


「やはり私や、レオナ達の認識と同じですね・・・」


ダリス伯爵は、怪訝な顔をして聞き返した。


「一体何があったというのだ」


「敵はガラデアが召喚した自称勇者です」


「なっ、召喚者だと」


「私の印象は、ガラデアに丸め込まれ虐殺を実行した頭の悪いガキでしたよ」


ヒデヨシの表情からは、冷たい氷が発する冷気すら感じる。


「頭の悪いガキ、ですか・・・」


「力に自身がある子供であれば、誘い込むのは簡単でしょうな」


ダリス伯爵が、綺麗な姿勢で答え思案する。


「私も同感です、圧縮砲を発射体制で待機させます」


「誘い込みは私が指揮しよう、ヒデヨシ殿は砲撃指揮を頼む」


「それでは作戦開始だ、各員死に急ぐなよ」


ダリス伯爵の号令で、兵士達は手早く準備を始めた。


ヴィンクスの酒場では、腹を満たした勇者カズヤが睡魔と戦っている。



 「カズヤ様、グリムウェル軍が街の外に」


酒場に駆け込んできたビルが、椅子でうたた寝をしていた勇者カズヤをおこす。


「んあっ・・・、性懲りもなく現れやがったな」


「俺が全部ぶっ倒してやるぜ」


「その、カズヤ様、僕が案内しますのでついて来てください」


ビルは、カズヤを先導して酒場を後にした。


自信に満ちた表情で歩くカズヤ、きっと彼には作戦など無いのだろう。


彼の圧倒的な力に敵うものなどいないのだから。



 ヴィンクスの村、街道からは十数名の兵が一人の男に向けて矢を射かけていた。


「勇者にそんなものが効くかー」


カズヤは、刺さった矢を気にせず空を薙ぎ払った。


「矢をものともしないなんて、引けー」


一人の兵士が後退を指示する。


十数名の小隊は、森へ向かって後退を始めた。


「自分から仕掛けて来たくせに、情けない奴らめ」


腕に刺さった矢を抜き、カズヤは森へ走る。


カズヤは常人ではない、土を蹴った瞬間に地面が軽く砕ける。


ダリス伯爵の指示により、矢の射程ギリギリから射かけていた小隊。


普通に考えれば、圧縮砲へ誘い込むまでに追いつく事などありえない。


だが、そんな目算は常人に対してのものだ。カズヤに対してのものではない。


悲鳴が上がる。首が飛ぶ。


あっという間に小隊は恐慌に陥り、散り散りに逃げまどう。


カズヤは予定のコースを外れ、逃げた兵士を追い始めた。


「勇者カズヤ、あたしと勝負しろ」


茶色の尻尾をくゆらせ、レオナは大声で猛る。


声に気がついたカズヤは、レオナに向けて一直線に駆けた。



 どうする・・・、どうしたら良い・・・。


レオナは、永遠に思える一瞬を巡り漂っていた。


レオナの時間だけが、緩やかに進む。


あたしは、多分死ぬ・・・


前に立っていたライカの体は弾けて居なくなった。


別方向に逃げたシェザンは二つになってまだ動いている。


もう、それをした勇者はあたしの目の前にいる。


「レオナ、右へ全力で飛びのけ」


ヒデヨシ様の声、それだけがこの世界で唯一聞こえた音。


わけもわからないまま、あたしは右側へ転がるように飛びのいた。


何かが空を切り、風があたしをさらに右へと進ませる。


あたしは転がって木にぶつかり、天地は逆さまになっていた。



 「撃てー」


ヒデヨシの合図と共に、二台の圧縮砲から弾丸が飛び出す。


剣を振りぬいていたカズヤ、だが矢程度ならば問題にもならない、矢程度ならば。


槍のようなその弾丸は、エドガーの剣速より早く、真っ直ぐに飛ぶ。


一発は右腕をかすめ、一発が右足を粉砕して吹き飛ばした。


カズヤは、失った右足で地面を蹴ろうとしてそのまま地面へ転がる。


倒れた拍子に右手で受け身を取ろうとし、その右手が動かせない事を認識した。


「う、ぐぞうっ足が、足が」


痛みを訴えるカズヤに、冷酷なヒデヨシはゆっくりと近づいていく。


「さて、勇者カズヤよ、愚かな貴様にとってこれが最後のチャンスだ」


「慎重に言葉を選びたまえよ」


カズヤは声の主を睨む、声の主の形相に少しの恐怖を覚え、目を背けた。


「よくも、よくもこの悪魔め、お前が悪の王だという事はわかっているぞ」


カズヤはそれでも勇者だった、背けた目を戻し、強い意志は言葉になる。


「まず一つ、貴様が殺した者達にとって、貴様こそが悪魔だと思うがそれについての意見はあるか」


「ただ普通に暮らしていた兵士も、村人も、突然命を奪われた」


「そんなの、まず先にお前達が奪ったんだろうが」


ヒデヨシの表情は変わらない。


「では二つ、村人は奴隷だと言っていたが、お前の目で確かめた真実はなんだ」


「村人を守って死んだ兵士、村人を避難誘導して逃げ遅れた兵士、兵士の遺体にすがりつく村人」


「お前の目には映らなかったのか」


「・・・正義のためだ」


カズヤは、真っ直ぐな視線を返すことができず、目をそらした。


「最後に、貴様が殺した者達へ言う事はあるか」


「俺は正しい事をしたんだ、俺は勇者なんだぞ」


「そうだ、俺の力を見ただろう、俺を勇者として迎えれば・・・」


ヒデヨシの表情が変わった事で、カズヤの言葉が先へ続かなくなる。


「救いがたい」


ヒデヨシの心を代行し、ダリス伯爵が声を上げた。


ダリス伯爵が、剣を抜きながら話を続ける。


「私が首を撥ねてよろしいですか、ヒデヨシ殿」


「首っ、いや待て、待ってくれ」


「ダリス伯爵様お願いします、私では切り刻んでしまいそうです」


「ちょっ、死にたくないっ、俺は勇者なんだぞ」


その言葉が承諾を得る事は無かった。


他人がカズヤだと認識するためのそれは、地面に落ちて転がる。


残ったものは、ビクビク痙攣してから動かなくなった。


ダリス伯爵は、剣に付いたものを拭い、綺麗な所作でそれを鞘に納める。


森には葉擦れの音に交じり、微かなうめき声が辺りから聞こえている。


既にこと切れた者達に、死を否定したい者達と、運よくそうならなかった者達。


ともかく、凶悪な侵略者の蛮行はこれで終わったのだ。

続きが気になる時は、応援の意味も込めてブックマークや感想など頂ければ、モチベーションにつながります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 勇者がこうなるとは・・・・・。 ヒデヨシさんの統治者としての行動にますます目が離せなくなってきました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ