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The way to the kings  作者: 使徒澤さるふ
第一章 グリムウェル編
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第十五話 ~侵略の急報~

 風雲急を告げる。


ラボの一室、ダリス伯爵と息子のリールが出立を急いでいた。


「ダリス伯爵様、ラボの訓練兵ですが編成が完了しました」


ヒデヨシとローズが、ダリス伯爵の元を訪れて現状を伝える。


「他の増援と、戦況はどうだ」


「戦況は不明です、兵にオーガスト伯爵の犬車を追わせており、開発中の兵器をまわしてもらうよう手配しております」


「開発中の兵器だと、それは本当に使えるものなのか」


「まだ問題点は多いですが、威力は保証できるかと思われます」


「日常魔法レベルの術者でも、活用できる魔導砲です」


「なんと、殺傷力の無いレベルで戦えるのか」


「はい、我が国の魔法レベルを前提に設計致しました」


「これもヒデヨシ殿の発案か・・・」


ダリス伯爵は、空いた口を塞ぐ事を忘れている。


「流石ヒデヨシ様です、僕もその兵器を見たいです」


リールのまなざしはいつも通りだった。


「リール、残念だが連れてはいけない」


ヒデヨシは、リールと目線を合わせて諭す。


「リール、これは伝記や戦記ではない、目の前にある実際の戦争だ」


ダリス伯爵もヒデヨシに続く。


「お前を連れて行くことはできない、ここでおとなしくまっていなさい」


「リール、いい子だからわたくしと一緒に待ちましょう」


「ローズマリー様・・・、はい、わかりました」


「でもヒデヨシ様、必ず帰って、僕にお話しを聞かせてくださいね」


リールの耳が下がり、その目には少し涙が見える。



 「それでは状況をお伝えします」


グリムウェル領、ガラデアとの国境になる村、ヴィンクスへ向かう騎竜と犬車の集団。


ヒデヨシとダリス伯爵は、犬車の中で先行部隊の報告を聞いている。


「ヴィンクスの警備兵が襲撃されたのは今朝」


「敵はヴィンクスを占領し、現在は村を略奪している模様です」


ヒデヨシは、報告している兵に一つの疑問を投げる。


「敵はガラデアである可能性はあるか」


「それは、まだはっきりとしません、敵は一人の男でして・・・」


「一人・・・。一人に警備兵が全滅させられたというのか」


ダリス伯爵は驚きの声を上げた。


「生き残ったものが言うには、まるで勝ち目の無い戦いだったと・・・」


「その後、ガラデアから村の制圧部隊が出たりしたとの報告はないのか」


「はい、監視の報告によると増援はなく、ガラデアに動く気配は無いとのことです」


「ガラデアが動かないのは不自然だが、これはチャンスととらえよう」


「ヒデヨシ殿、部隊指揮は私が出よう」


「君には兵器の配備と作戦を頼みたい」


「とにかく、時間を稼ぐしかありませんね・・・」


ヴィンクスへ急ぐ騎竜の群れ、彼らはヴィンクスの手前、街道のある森で足を止める。


ここが、臨時の司令部となっていた。



 「ヒデヨシ殿、オーガスト伯爵からの伝令です」


ヒデヨシに向けて、一人の男が臨時指令部へ駆け込んで来た事を伝える。


「ヒデヨシ様、圧縮砲の到着は三時間後、二台を配備できるとオーガスト伯爵様からです」


入り込んできたのは、商人と思わしき出で立ちをした青年。


「三時間か・・・、敵の状況は」


「現在は・・・、昼食を取っているようです・・・」


一人の兵士が、ヒデヨシに答える。


「その・・・、村の女性を使い、昼食を作らせて休憩しているらしいとの報告です」


「ふざけてはいるが、こちらに取っても都合が良いな」


「ダリス伯爵様、部隊を待機させて圧縮砲の到着を待ってください」


「ヒデヨシ殿は、どうされるのです」


「私は敵と話しをしてきます」


「話し、貴殿は何を言っているのだ、殺されるぞ」


「報告通りであれば、村人に危害を加えていません」


「村人に偽装し潜入、接触をはかります」


「レオナ、ビル、村人の服を借りてついてきてくれ」


突然声をかけられたレオナの尻尾が反応する。ビルはまっすぐな敬礼を見せた。


「「了解しました、ヒデヨシ様」」



 ヴィンクス村の様子は悲惨だった。


監視塔は折れ、防壁が砕け、検問は破壊されていた。


誰のものかわからない腕、無残に千切られた兵士。


ついさっきまで生きていたであろう、土に爪痕を残した、腹を裂かれた者。


恐怖に歪む、何も理解が出来ずにいた村人。


村人の犠牲は少ない、兵士の犠牲が多すぎる事に比較すれば、少ない。


破壊者の機嫌を損ねないよう、差し出されたのは酒場でウエイトレスをしていた村娘。


震える手で出された料理は、破壊者の腹に納まった。


鎧に身を包んだその男は、男と言うより少年と言うべき存在だった。


短髪黒髪の中学生、ヒデヨシには少なくともそう見える。


「その、勇者カズヤ様、料理の味はいかがでしたでしょうか」


ボロを来た三人、そのうちのヒデヨシは破壊者へ声をかけた。


「ああ、悪くなかった」


「それはよろしゅうございました」


ヒデヨシは一礼して、皿を下げさせる。


「カズヤ様は、これからどうされるおつもりなのでしょう」


「そうだな、ヴィンクスは無事解放出来た事だし」


「解放・・・ですか、その、申し訳ないのですが、一体何から」


「もちろんグリムウェルからさ、ここは元々ガラデアから奪われた村だ」


「村人も奴隷のように使われていたって聞いてる」


三人は目を合わせ、その話しを否定し合っていた。


「あの・・・、カズヤ様はガラデアからこられた勇者なのですか」


「そうさ、俺はガラデアで正義のために召喚された勇者だ」


「この世の悪を正し、巨悪を討つ」


「その、申し訳ないのですが、我々はあなたを恐れておりました」


「勇者様の力は強大で、兵士のみでなく村のものにも被害が出ました」


「あなたは、食事を運んだリナの手が震えていることに気がつきましたか」


「村の様子を見て、奴隷労働で虐げられていると判断されたのでしょうか」


カズヤは椅子を揺らしながら答える。


「何を言っているのかわかんないけど、村は解放されたんだ」


「あんたも今後は自由な生活ができるぞ」


ヒデヨシは拳を握り、しばらく床を眺める。


ガキが・・・、その声はレオナにだけ聞こえる囁き。


囁いた本人の顔をみて、レオナは恐怖に歪む。


「ありがとうございますカズヤ様、まだ料理は用意しております」


「今しばらく、おくつろぎください」


ヒデヨシはにこやかに深く礼をし、レオナとビルを連れて酒場を後にした。


レオナとビルは、触れれば殺されかねない形相の隣人を見ず、真昼の太陽を見るよう努めた。

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