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The way to the kings  作者: 使徒澤さるふ
第一章 グリムウェル編
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第九話 ~需要と供給~

 ラボの中、大きな家の前に豪華な犬車が止まっている。


各所に金色の装飾、汚れのない統一された白。


グリムウェルの邸宅に止まるべきそれは、急造の邸には不釣り合いに見えた。


「本日はわざわざお越しいただきありがとうございます、オーガスト・レイヴンクロスト伯爵様」


「ローレンタールがどうしてもと言うからな、ヒデヨシ・ハシバ殿」


大きな体は裕福の証と言わんばかりのその大きさ。横はともかく縦も。


丁寧に整えた金髪と、油がのった肌、オーガスト伯爵は不満そうに答えた。


「貴様の提案が儲かると、あれだけローレンタールが妄信的になる事に興味が沸いた、私が来た理由はそれだ」


大きな家にある、ひとまず迎賓の準備を整えた部屋の、大きな椅子へ伯爵は腰かけた。


「ローレンタール様はそこまで熱心だったのですか、期待に応えるよう努めさせて頂きたいと考えております」


「ヒデヨシ様、オーガスト伯爵様、カーサス産の紅茶をお持ちしました」


ローズが二人の前にカップを置き、紅茶を注いだ。


「これはローズマリー様、お久しぶりでございます」


「オーガスト伯爵様もおかわりなく、お元気そうで何よりです」


「カーサスの紅茶とは貴重なものを、ご用意頂き感謝いたします、ローズマリー様」


オーガスト伯爵は、満面の笑みで感謝を述べた。


「オーガスト伯爵様、早速ですが本題に入りたいと思います」


そう言って、ヒデヨシはいくつかの資料をテーブルに広げた。


「私の計画は輸送の専業化です」


「詳しくはこちらの資料をご確認ください」


オーガスト伯爵は、その大きな手で資料をつかみ、凝視する。


紅茶が無くなったのを見て、ローズがカップにそそぐ。


「現状の問題点、私には問題点である事に賛同しかねるな」


「街をまたいだ取引が少ない、と言う点ですね」


「そうだ、そもそも街をまたいでまで取引をする必要が無いだろう」


「誰もがそう思っている、だからこそ大きな儲けになります」


「街をまたいだ取引は、一部の商会が独自に行っている以外は、行商人が各地に売り歩いている程度です」


「経済はほぼ街の中で完結していますので、街の大きさがそのまま経済の大きさです」


「つまり、このままでは現在以上に経済が大きくなることはありません」


「街をまたぐ輸送が安定すると、他の街へ需要が拡大し、経済規模が拡大します」


「需要を満たすために生産が増え、輸送の需要が拡大していくでしょう」


オーガスト伯爵は押し黙ったまま、資料を見つめていた。


「あなたの狙いは、私だけを儲けさせる事ではありませんね」


「その通りです、オーガスト伯爵」


「経済の活性化を促し、経済規模を拡大させた結果、伯爵が一番儲かる人物だということです」


「この計画書通りであれば、そうなるな」


オーガスト伯爵は、また紅茶を一口飲んだ。


「そのカーサス紅茶は偶然入手したものです」


「伯爵様も貴族向けに現地で仕入れ、独自の販売を行っておりますね」


「私はラボに偶然来た行商人から買う事が出来ました」


「高級嗜好品のカーサス紅茶は、領主やその周辺人物ぐらいしか買えない希少な紅茶」


オーガスト伯爵が、紅茶を見つめて売り言葉を漏らした。


「ですが、カーサスの地では普通に流通している紅茶です」


「他の街では最上級品と言われている種類ですら、現地の男爵が嗜んでおります」


「手に入ったのは一般向けの品で、現地価格の八倍ほどの値段でした」


オーガスト伯爵が一つの結論を出した。


「カーサスの地と同様に、他の領地でもカーサス紅茶が流通する」


「需要に伴い紅茶の生産が増え、輸送も増える」


「輸送を商売としているものが、儲からないはずはない」


カーサス紅茶、その独特の甘いフルーツのような香り、リンゴやレモンなども合うシンプルな味。


香りが良いものほど高級品とされているが、カーサスでは農家が一般的に栽培もしている。


高級品は領主お抱えの農家が栽培しているらしいが、詳細は何もわからない。


オーガスト伯爵でさえ、ロベルト・カーサス伯爵から瓶詰されたものを購入しているにすぎない。


「実行する上での問題点については、私の想定と同じだ」


「ではまず、グリムウェルとクロストの流通を確立させて頂きたいのですが、ご賛同頂けるでしょうか」



 綺麗な銀色の毛並みをした大狼が走る。


狼は毛並みによく合う豪華な犬車を引いていた。


車の中でオーガスト伯爵は深く思案し続けている。


ヒデヨシ・ハシバ。突如グリムウェルに表れた、素性の分からぬ男。


ローレンタールが心酔し、娘を傍に付けている事で確信を持つことが出来た。


奴はローレンタールが召喚した男だ。


召喚の準備を進めているとの情報はつかんでいたが、既に召喚は終わっていた。


公表をしないのは、ヒデヨシがエドガーに勝てないと言う証明。


それでもヒデヨシを始末しない理由は、今日見た通りか・・・


計画は賛同できるだけのものはあったが、成功したところでエドガーに奪い取られて終わるのは好ましくない。


今以上に、エドガーへの根回しも強化しなければならない。


幸いにも、計画は根回しの資金を用意してくれる。


いつでもローレンタールを糾弾し、エドガーへの忠誠を示せる準備が必要だ。


ヒデヨシを最大限利用し、切り時を見極めれば、エドガーの信頼を得た上で私が国主となるだろう。


車輪が石をはじき、揺れる犬車、オーガスト・レイヴンクロストは今後の展望に笑みを浮かべた。


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