恋敵2
ナディアは瞬く間に友人を増やし、学院での生活を謳歌していた。
彼女はレイナード様と同じクラスで、頭の回転もとてもよくて、授業中もたくさん発言していると聞いている。
ナディアの転入から3か月が経過する頃には、もう4人での勉強会など不要に思えたし、レイナード様とのイチャコラを見せつけられてうんざりもしていた。
勉強会のあとのお茶の時間に出されるお菓子が楽しみだったけれど、もう辛抱ならない。
今日こそは、もうわたしはこの勉強会を今回限りで辞退するから、あとは3人でどうぞと言うつもりで、いつも放課後の勉強会に使っている教室へと向かった。
ドアを開けようと手に掛けたとき、中からナディアの楽しそうな笑い声が聞こえて思わず手が止まった。
「わたしの鑑定結果が『お姫様』?誰が言いふらしているのかしらね」
そう言いながら、彼女の声色はまんざらでもない様子だ。
その噂はわたしも小耳にはさんでいる。
このころにはすでに、レイナード様はナディアとの「真実の愛」に目覚めてしまったようだと学院中の噂になっており、頼みもしていないのに勝手に「ステーシア派」「ナディア派」という派閥まで形成されて、どっちの応援をするのか、レイナード様は最終的にどちらを選ぶのかと外野でやんやと盛り上がりを見せている。
そんな中で、入学当時のレイナード様の鑑定結果は「王子様」、そしてナディアは「お姫様」だったという噂があたかも本当のことのように飛び交い始めたのだ。
ではステーシアは?
当然、関心はわたしの鑑定結果が何だったのかに向けられて、単刀直入にわたしに尋ねてくる生徒もいたけれど、誰に聞かれても「内緒です」と答えているうちに、今度は
「あれは秘密って意味ではなくて『ナイショ』と鑑定されたってことなんじゃないのか?」
「ナイショってどんな職業だ?」
「…さあ?」
そんなことまで言われ始めて、もうどうにも引っ込みがつかない状況になっていた。
「レイナードには教えてあげる、わたしは…」
ナディアはレイナード様のことを敬称をつけずに呼ぶ。
無礼講である学院内では当然それも許されているが、彼女が転入してくるまではレイナード様を呼び捨てにするのはカインだけだった。
レイナード様は、わたしによく不満げに漏らしていた。
「シアはどうして俺のことを昔みたいに『レイ』と呼んでくれなくなったんだ?」
どうしても何も、あなたと婚約して、お妃教育で厳しく躾けられたせいよっ!
結婚するまでは、たとえ婚約者といえど王太子殿下のことを親しげに呼ぶのはやめなさいと言われたからよっ!
レイと呼んでほしいと言われる度に、そう叫びたいのをこらえて、少し困った顔を作って「恥ずかしくて…」と答えていたのだ。
ナディアには何の足枷もなく、わたしがいちいち引っかかっているハードルを難なく飛び越えてゆく。
おもしろくないわね…。
思わず本音を心の中でつぶやいてドアを開けると、レイナード様の肩に手をかけ顔を寄せて耳打ちしているナディアの姿と、それを聞いて「よかったじゃないか」と微笑むレイナード様の姿が目に飛び込んできた。
レイナード様は長い脚を投げ出すように組んでナディアのほうに体を傾け、なんともくつろいでらっしゃるご様子だった。
わたしの姿を認めても二人が悪びれる様子はない。
「シア、いまナディアに鑑定結果を聞いていたんだ、シアも教えてもらうといいよ」
どうしてこの人は、笑顔でそんなことをわたしに言えるのだろうか。
「お気遣いありがとうございます。でも、勉強の時間が少なくなってしまいますので、まずは勉強会にいたしましょう」
口角を上げて微笑むと、レイナード様もわたしの提案に納得して、勉強会が始まった。