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恋敵1

 あの頃は本当に楽しかったし、幸せだった。

 それと同時に、わたしは「王太子の婚約者」という立場に無意識のうちに胡坐をかいていたのかもしれない。


 この先、わたしは当然この人と結婚してこの国の王妃になるのだと――。



 あの日、レイナード様に「シアの鑑定結果は?」と聞かれて、正直に答えられなかった。


 目の前にいる二人の「宰相」と「王子様」という、そのまんまの結果がうらやましかった。

 それを言うなら、「一流タンク」というわたしの結果もある意味「まんま」ではあったのだが、将来は王太子妃になり、そしていずれは王妃になるはずのわたしが一流タンクではまずいのだ。


 そうでなくても、脳筋武闘派家系であるビルハイム家の娘が王太子殿下の婚約者になったことに対する風当たりが強いことに、さすがのわたしも気づいていた。

 伯爵家とはいえ、それは過去に戦争での功績を称えられて叙爵されただけであって、あいつらはいまだに粗野で乱暴だ、その証拠に領地も持っていないし仮に持たされたとしても領地経営などできないだろうと陰で揶揄されていることも知っている。


 ビルハイム家が領地を持たないのは、政治にも領地にも興味がないからだ。

 うちの家門は、私腹を肥やすことよりも筋肉を育てることが第一なのだから。

 ビルハイム家の面々は、国家から支給される貴族手当、騎士団から支給されるお給金や、プライベートな警護の報酬、剣術や体術の道場経営で生計を立てている。


 ブヨブヨな脂肪をたっぷり蓄えたみっともないオジサン貴族たちに揶揄されるいわれは全くないはずだけれど、ビルハイム伯爵家令嬢の鑑定結果が「一流タンク」であることが知れ渡れば、また何を言われるかわかったものではない。

 これは自分の胸の内にのみ収めておいて、いつか、レイナード様のことを身を挺してお守りしたときに「実は…」と明かそう。

 

 そう決めて、レイナード様には「内緒です」と答え、微笑んでごまかしたのだった。



 この半年後に、海に浮かぶ島国から交換留学生として学院に転入してきたナディア・ロシーゼルを見初めたレイナード様が本物の恋に目覚めなければ、わたしたちはきっと、何となく上手くやって、学院卒業と同時に結婚していたはずだった。


 ナディアは王族と系譜が繋がる貴族のご令嬢で、国賓扱いのためにレイナード様、カイン、そしてわたしが転入当初に案内役を任されることになり、そのまま自然と4人で昼食を共にしたり勉強会を開くようになっていった。


 ナディアは伸びやかな長い手足を大きく動かし、ハニーピンクの髪を揺らしながら走り回る健康的でアクティブな子で、口を大きく開けてお日様のように笑い、感情表現も豊かな奔放な性格だった。


 子供の頃のわたしもそうだったんだけどな…。

 レイナード様の婚約者としての自覚――呪文のように先生たちに言われ続けた言葉が足枷となって、わたしはいつの間にか常に仮面をかぶるようになってしまった。


 ナディアに

「ステーシアさんて、お人形のようね」

と言われたときも、まったくもってその通りだと思った。


 表情も感情表現も乏しく、何を言われても口角を上げて微笑むだけ。


 わたしとナディアを比べれば、男性が100人いても100人ともナディアを選ぶだろう。

 わたしが男であってもそうする。


 だから、レイナード様がナディアに惹かれていくのも無理のない話だった。

 わたしは、親密度を増していく二人を最も近い位置で眺めていたのだ。

 そして気づけば、よくレイナード様と二人で座っていた中庭のベンチもナディアに奪われていた。

 




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