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グリフォンの大活躍のおかげで予定よりも早く帰路につくことができたため、学院の到着も深夜ではなく夕飯時だった。
それでも本来ならばもう寄宿舎の門は閉められていて事前の申請なしでは通してもらえない時間帯だ。
ただ、レイナード様からの手紙に「咎めない」と書いてあったということは、入れてもらえるのかしらと期待しながら門の前で馬車を止めてもらった。
するとそれを待ち構えていたように、門のすぐ脇にある門番の詰め所からレイナード様が飛び出してきた。
その後ろには、カインとリリーまでいるではないか。
レイナード様が門番に何かを告げると、すぐに門が開き、中にいれてもらうことができてホッとした。
「ただいま戻りました」
「シア!戻って来てくれてありがとう!」
いきなりぎゅーっと抱きしめられて困惑してしまう。
昨日の午前中にレイナード様とは会話を交わしたし、会えなかったのは今日だけのはずなのに、この熱烈な歓迎ぶりはどういうことなんだろうか?
「ねえ、略奪はどうなったの?」
リリーに問われて、そうだった!と思い出し、レイナード様の腕からすり抜けた。
「もちろんしてきたわっ!」
戦利品であるレッドリザードの尻尾を見せようと馬車の荷台のほうを向いたわたしの背中に、レイナード様の裏返り気味の声が飛んで来た。
「し、してきたのか!?」
ルシードと一緒に荷物を下ろし、その中からまだ少し動いている活きのいいレッドリザードの尻尾を入れている麻袋を抱えて戻ると、レイナード様は両手で顔を覆ってしまった。
「子供まで産んだのか…」
いやいや、何の話ですか!?
機転を利かせてくれたカインにより、わたしとルシードは王太子の密命から帰還したところということになっていて、特別な計らいで門を開けてもらい、夕食も用意してもらえた。
遅めの夕食をかきこむと、ルシードはすぐにマーガレットへのプレゼントの製作に取り掛かると言って、レッドリザードの尻尾を抱えて出て行った。
ほかに誰もいない食堂で、マーガレットもこの場にいないため、ようやく今回の件について残りの三人にネタばらしすると、
「なあんだ、略奪の意味が全然違うじゃないの」
とリリーが呆れ、レイナード様とカインは急に脱力して上体を背もたれに預けた。
レイナード様がひどく取り乱していたのは、わたしがレイナード様との婚約破棄を狙って、ルシードと「既成事実」を作るために逃げ出した挙句、赤ちゃんを連れて帰って来たと勘違いしたためだと聞かされて、今度はわたしのほうが驚いた。
何でそうなるの!?
ゴソゴソ動く麻袋の中身がレッドリザードの尻尾だと知ると、レイナード様はカインを抱きしめて「よかった」とつぶやき、カインに「よかったな。だけど気持ち悪いから早く離れろ」と窘められていた。
「シア、疑ったりして悪かった。大体、昨日の今日で子供なんて生まれるはずないのに、どうしてシアのことになるとこうも馬鹿になってしまうんだろう」
「それは恋の病ってやつだろう?それだけステーシアちゃんを溺愛しているってことだよ」
うなだれるレイナード様の肩にポンと手を置いてカインが慰めて、わたしとリリーも、うんうんと頷いた。
どうやらこの病気は男性のほうがかかりやすいらしい。
先日結婚したばかりのレオンお兄様も、この病気のせいで新妻のマリアンヌの前では、どうしようもなくポンコツだ。
「時間がなかったとはいえ、よく説明もせずに飛び出して行ったわたしがいけないの。心配かけてごめんなさい。待っていてくれてありがとう、レイ」
できればずっと、その病気にかかり続けていて欲しいと願うのは、王太子妃としては失格だろうか。
レイナード様の横に座り直して手を握ると「シア、お疲れ様」と言う声と共にレイナード様の綺麗なお顔が、すぐ目の前に寄せられて…。
「さてと、俺は先に失礼するよ」
「わたしも小説を書かないと!いつもネタの提供ありがとう、じゃあお先」
カインとリリーが同時に立ち上がり、わたしたちに手を振りながら食堂を出て行った。
もしかして気を遣わせてしまったかしら。
二人を見送っていると、長い指で顎を掬われた。
「シア、よそ見はダメだよ」
唇がそっと重なった。




