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コンドルはこのままグリフォンを連れて実家に帰ることになり、わたしとルシードは牧場が手配してくれた馬車で帰ることになった。
途中の町で馬車を乗り換えるために休憩がてら広場のベンチに座っていた時だった。
鳥らしきものが一直線にこちらへ向かって飛んでくると思ったら、ルシードが「あれ?キースお兄ちゃんの鷹だ」と言って腕を伸ばした。
その腕に着地した鷹の脚には手紙が括りつけられている。
ルシードが解いて開き、一通り読んだ後わたしにそれを差し出してきた。
『シア、戻って来てくれるのを待っている。戻って来てくれたら何も咎めはしない。愛してる。 レイより』
紛れもなくレイナード様の筆跡で書かれている手紙だ。
ただ所々、羽ペンが折れたのではないかというインクの飛び散り方をしていて、いつも優雅なレイナード様にしては珍しいなと思った。
そしてその下には、違う筆跡の文字が書かれていた。
『山猿へ 俺はいつだって弟の味方だ。だから弟の恋を応援したい』
文面から察するに、これはキースが書いたのだろう。
「どういうことかしら?」
レイナード様がなぜキースの鷹をわざわざ使ってまでラブレターを送って来たのか、さっぱり見当がつかない。
「僕、キースお兄ちゃんに恋愛のことなんて話したことないはずなんだけど、どうして知ってるんだろう?」
ルシードも首を傾げている。
謎だらけではあるが、キースもルシードの恋を応援してくれているようだから頑張らないとダメだと励ましつつ、用意のいいルシードの荷物の中から筆記用具を出してもらって返事を書いた。
『今から帰ります』
そしてこの町の名前を書いて細長く折りたたむと、鷹の脚にしっかりと結ぶ。
「疲れてるところ悪いけど、よろしくね」
ルシードが鷹に語り掛けて腕に乗せて立ち上がると、鷹は空高く羽ばたき、すぐに見えなくなった。
途中の山を大きく迂回してのんびり街道を走る馬車とは違い、鷹は一直線に飛んで行くのだろうけど、それにしてもかなりの距離だ。
「あの鷹って、ルシがどこにいても居場所を突き止めて飛んでくるの?」
「うん、そうなんだよ。目がよほどいいのか、別の何かで僕の居場所を感知しているのかはわからないんだけど、すごいよね」
すごいなんてものじゃないわ。
それってもはや、軍事兵器レベルよっ!
「ねえルシ、それを解明できれば、標的の追尾機能を備えたライフル弾とか作れちゃうんじゃないの!?」
ルシードが冷めた目でわたしを見た。
「ステーシアさんは、火炎放射器とか追尾弾とか、どうしてすぐそうなるかなあ」
尚、そう呆れていたルシード・グリマンが、ロックオンした標的をどこまでも追いかけ続け、毒針を持ち、さらにはどんな遠い距離からでも帰還する「追尾蜂」を開発するのはこの10年後のことであった。
しかし、それがステーシア王妃の発案であったことや、開発に成功して実用化されていたことは、最重要国家機密である。




