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「うわあぁぁぁっ!助けてくれ~~~っ!!」
助けを求めるコンドルの足は、完全に地面を離れて浮いている。
「何やってるのよ!コンドルの馬鹿っ!!」
慌てて飼育小屋まで走って戻った。
あの人、一体何回グリフォンに連れ去られそうになったら気が済むのかしら。
また胸を晒す作戦が成功するだろうか…そう思いながら、飼育小屋の屋根に上る方法を探す。
「降ろせ~!降ろしてくれ~っ!!」
コンドルはグリフォンに懇願しているが、聞き入れてくれるはずもないだろう。
そう思っていたら、なんとグリフォンはコンドルの言葉に従って彼を地面に降ろし、腰が抜けてへたり込んでいるコンドルの肩に頭をすり寄せている。
ルシードによると、突然バサバサという羽音が聞こえたと思ったらグリフォンがいて、あっという間にコンドルが捕まってしまったんだとか。
「なんか、コンドルさん、グリフォンに好かれてない?」
「ええ、間違いないわね」
ルシードの見解に大きく頷いた。
グリフォンにモテモテ…さすが人間離れしたコンドルと言うべきか。
もしかすると、騎士団の野外訓練でグリフォンに襲われた時も、あの子はコンドルと遊びたかったのかもしれない……さらに飛躍的な妄想にはなってしまうけれど、この目の前にいるグリフォンって、あの時のあの子だったりして!?
その時、いいことを思いついた。
「ねえ、コンドル!そのグリフォンに、岩山のレッドリザードを捕まえてここに連れてくるようにお願いしてちょうだい」
「そんなこと、聞き入れられるわけないだろうがっ!なあ、グリフォン」
「クルッ?」
グリフォンが首を傾げてコンドルをじっと見つめている。
やはりこれは脈ありだ。
「ええっと…?あっちの山にいるレッドリザードを捕まえてここに持ってくることはできるか?上手くいったら、俺が…ヨシヨシしてやる!」
「クルルッ♡」
グリフォンは岩山めがけて飛んで行った。
「すごいなあ、コンドルさんて。鳥系のものなら何でも意思疎通できるんですね!」
感心するルシードに、コンドルも「ま、まあな!」と言っているけれど、自分でもびっくりだったのではないだろうか。
コンドルはまだ腰を抜かしたままだった。
グリフォンはいとも簡単にレッドリザードを捕獲して戻って来た。
コンドルはその度に「ヨシヨシ、えらいぞ。じゃあもう一回だ」とグリフォンの頭を撫でて褒め、喜んだグリフォンは再び岩山へ飛んで行く。
小屋が空っぽだったせいか扉が施錠されていなかったため、受け取ったレッドリザードはさっそく小屋の中に戻して扉の開閉はルシードにお願いした。
グリフォンは目がいいし動きも俊敏なため、あっという間に三十匹ほどのレッドリザードを捕まえてきた。
その頃になってようやく、外の騒ぎに気付いて目を覚ました牧場主の家族は、わたしたち三人と、グリフォンと、小屋に戻ったレッドリザードを見て、大層驚いている様子だった。
わたしがどうしても尻尾がすぐに欲しかったのだと事情を簡潔に説明し、ルシードがビリビリする壁の説明をした後、わたしたちは朝食をご馳走になった。
グリフォンも外で生肉の塊をもらえてご満悦の様子だった。
レッドリザードの逃走後、牧場の従業員たちでどうにか捕獲しようと奮闘中だったが、レッドリザードがすばしっこい上に罠には引っかからない賢さも持ち合わせているためにどうにも上手くいかず、ダメ元で騎士団の派遣を要請しようかと話し合っていたところだったらしい。
レッドリザードの尻尾は、これだけのことをしてもらったのだからと無償で三本分けてもらえた。
名前を教えて欲しいと言われたけれど、それだけは事情があって言えないと固辞した。
そして朝食後――。
「あのさ、俺これでも婚約者がいるんだわ。だから、おまえの気持ちにはどうしても応えられない。ごめんな」
「クル……」
「でも友達にはなれる。これからもずっと俺らは友達だ。俺ん家に遊びに来いよ。庭が広いからさ、一緒にバーベキューしようぜ」
「クルル♡」
わたしとルシードは、コンドルとグリフォンの逢引きを飼育小屋の陰から見守っていた。
「ねえ、コンドルったらグリフォンに向かってかっこつけてるわよ?」
「ステーシアさん、グリフォンの真剣な愛を笑っちゃいけないよ」
「何言ってるのよ、ルシだって笑ってるじゃない!」
「ステーシアさんが笑うから釣られただけだよ!」
「おい、おまえら!全部聞こえてるぞっ!!」
振り返ったコンドルは、顔を真っ赤にしていた。
コンドルが照れているのか怒っているのかわからなかったけれど、グリフォンを手なずけたことに関しては、ただただすごいと感心して、本当はうらやましいと思っているのは内緒だ。
後にこの地方には、朝焼けと共に突如として現れた赤毛の女性が、二人の男とグリフォンを従えて一瞬にして牧場を元通りにし、その見返りは尻尾三本のみでいいと言って笑顔で去って行ったという「暁の救世主伝説」が語り継がれていくことになるのだが、それは余談である。




