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(カイン目線)
卒業式を控え、学院内はすでにお祭りムードに包まれている。
今日からはもう授業もなく、一旦実家に戻る生徒もちらほらいる。
その中で、不穏な噂を耳にした。
その噂の真偽を確かめるべくリリーを自習室に呼び出したのだが、リリーは明らかに困惑した顔をしていた。
「ステーシアちゃんは今どこにいる?」
「それがね…実は昨日の夕方に魔導具科のルシードとどこかへ行ってしまったの」
はぁっと大きなため息が漏れた。
コンドルの手引きでステーシアとルシードが駆け落ちしたという噂は、あながち嘘ではないらしい。
「どういうことだ?」
「それがわたしにもよくわからないの。ステーシアが髪を赤く染めて、卒業パーティーが迫っているから急がないといけないって言って…わたしが略奪なのかって聞いたら、そうだって言っていたわ」
なんだとお!?
「待て、つまりルシードがステーシアちゃんを略奪して駆け落ちしたってことか?」
「でもね、早ければ今夜には戻ってくるって言っていたのよね。どういうことなのかしら」
それは……既成事実を作って戻ってくるということではないのか?
「レイナードはどうなるんだ」
思わず頭を抱える。
「婚約破棄でしょうね」
俺の暗澹たる胸中とは裏腹に、リリーの声はなぜか嬉しそうだ。
「悪役令嬢は実はこれを狙っていたのよ!許すふりをして油断させて、卒業パーティーで仕返しの婚約破棄宣言をするんだわ。小説の第三弾はこれで決まりねっ♡」
いやいやいや、決まりね♡じゃねーし!
その時、自習室の入り口でバサッと書類を落とすような音が聞こえて振り返ると、青ざめたレイナードが立っていた。
レイナードは卒業式で卒業生代表の挨拶をすることになっていて、今日はその打ち合わせを教師としていたはずなのだが、おそらく手直しがほとんどなかったのだろう。
予想よりも早く戻って来て、俺たちの会話を聞いてしまったらしい。
「シアが…なんだって…?」
唇を震わせて今にも倒れそうになっているレイナードの肩を掴んで、無理矢理イスに座らせた。
「大丈夫だ、レイナード。今の話はリリーの小説のことだから」
「じゃあ、今すぐシアをここに呼んで来て」
それは…無理です……。
俺とリリーが気まずそうに視線を逸らすと、レイナードは泣きそうな声で叫んだ。
「すぐにキースに連絡を取って、ルシードの元に鷹を飛ばすように言ってくれ!」
卒業パーティーではリリーとダンスを踊っていい思い出を残そうと思っていたのに、とんでもないことになってしまった。
何でこんなことになるんだ。勘弁してくれっ!!




