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「んあ?レッドリザード牧場?ああ、あそこ小屋の壁が老朽化して穴が開いてたとかで、一匹残らず逃げ出したって聞いたなあ」
なんですって!?
「コンドル!あなたよくも、そんな呑気な声で残酷なことが言えるわね!」
学院内を探し回ってようやくコンドルを見つけたと思ったら、レッドリザード牧場の窮状を他人事のように(他人事なんだけれども)語る様子に苛立たしさが募る。
「はあっ?残酷?なんの話をしているのか、さっぱりわからないんだが」
詰め寄るわたしの剣幕に押されながらもしっかり口答えしてくるのが、コンドルという男だ。
「案内してちょうだい」
「いや、だから…」
「案内してちょうだい、その牧場に!」
「わかった、わかった。落ち着けって」
そして、文句を言いながらも結局わたしのわがままを聞いてくれるのもまた、コンドルの男らしい優しさなのだった。
「じゃあ、ステーシアさんとコンドルさん、レッドリザードの尻尾をお願いしますね」
ぺこりと頭を下げるルシードに「あなたも行くに決まってるでしょ!」と告げると「なぜ僕が!?」という顔をされたが、それを言うなら「なぜわたしとコンドルが!?」と言いたい。
「ルシ、自分で材料を取りに行ってこそ価値があるんじゃないの?マーガレットに喜んでもらいたいんでしょう?人任せではダメよっ」
「わかった。足手まといになるかもしれないけど、よろしくお願いします」
ルシードも決意を固めてくれたところで、善は急げ、早速出発しようということになった。
学院は明日から来週の卒業式までもう自由登校となり、授業がない。
コンドルはその間、一旦実家に帰るつもりだったとかでハウザー辺境伯家の馬車が間もなく迎えに来る予定なのだという。
コンドル、ナイスタイミングだわっ!
準備が整い次第、馬車の前に集合となり、わたしは大急ぎで寄宿舎に戻ると髪を赤く染めた。
そこへリリーとマーガレットが連れだって戻って来て、わたしの姿を見て目を丸くしていた。
「ステーシア、何してるの?」
言いたい。言ってしまいたい。
ルシードがマーガレットに告白するためにレッドリザードの尻尾が必要なんだって。
でも、そのマーガレット本人がここにいる以上、ネタばらしをするわけにはいかない。
「どうしてもルシと今すぐ出かけなくてはならなくなったの」
「ええっ!?」
「いつ帰ってくるの?」
「無事解決したら、早くて明日の夜には戻れると思うわ。卒業パーティーまで日数がないから急がないといけないのよ」
車中泊になってしまうけれど、明朝には現地に到着するらしい。
レッドリザードをすぐに見つけて尻尾さえ奪えば、もう帰れるはずだ。
実際は、寄宿舎は夜中は閉門しているため明後日の朝になるだろう。
「ねえ、まさか略奪じゃないわよね?」
リリーが声を潜めて聞いてくる。
「略奪?うん、ある意味そうね」
だって、レッドリザードの尻尾を奪いに行くんだもの。
これが大きな誤解を生むことになるとも知らず、戸惑う二人に「急いでいるから行くわね。帰ったらちゃんと説明するから」と言って、大慌てで寄宿舎を出たのだった。




