2
「え?マーガレットを誘いたい?」
思わず聞き返すと、ルシードは顔を真っ赤に染めてこくんと頷いた。
なんだ、そういうことならもっと早く言いなさいようっ!
魔導具科のルシードと服飾科のマーガレットは、全く接点がないように思えるけれど、実は大有りなのだ。
学院の魔導士たちが羽織るローブは、怪我をしないように魔法を吸収・中和できる魔導具のひとつで、魔導具科の生徒たちが特殊な繊維を加工して生地を作り、それを服飾科の生徒がローブに仕立てるという分業制で作られている。
きっとその過程でマーガレットと会う機会も、もしかすると言葉を交わす機会もあったのかもしれない。
ルシ!マーガレットを見初めるだなんて、あなた、お目が高いわ!
「じゃあ、早速マーガレットを誘いに行くわよ。まだ誰からも誘われてないって言ってたから、是非是非、誘ってあげてちょうだい」
ダッシュでマーガレットの元へ戻ろうとするわたしを、ルシードが引き留めた。
「待って!まだ準備が…」
「何言ってるのよ、ルシの意気地なしっ!さあ、行くわよ」
「違うんだ、もうひとつ相談があって…」
もうっ、まどろっこしいわねえ。
ルシード曰く、マーガレットを誘う際に一緒に渡したい物があるのだが、それを作るための材料の到着を待っていたらこんなにも直前になってしまったのだという。
おまけに、さんざん待たされた挙句、その材料が「入手困難につき納期未定」になってしまって作れないという窮地に立たされているんだとか。
「だったら、とりあえず誘うだけ誘って、後から渡せばいいだけじゃないの?」
わたしの提案にルシードは浮かない顔をした。
マーガレットを誘ってOKしてもらえればそれでも問題はないけれど、万が一、断られた場合でもそれだけはどうしてもプレゼントしたいのだという。
卒業パーティーのパートナーを申し込んで断られるというのは、告白してフラれたも同然で、その相手に後日プレゼントを渡そうとするのは未練がましくてしつこい男だと怖がられそうだから、誘うときに渡したいんだとか。
誰からも誘われていないならOKするはずだと思われがちだが、やはりそこは、いくら無礼講の学院内とはいえ実際は平民であるマーガレットと、男爵家のルシードでは身分差があり、ただでさえパーティー参加に後ろ向きなマーガレットがそれを気にして断る可能性は大いにある。
ちなみに一体どんなプレゼントなのかと尋ねると、目の疲れと肩こりを軽減する効果のある生地らしい。
確かにそれは、マーガレットが喜びそうだ。
ドレス作りで忙しそうにしていたときも、肩が凝った、首が痛いと言うマーガレットに、就寝前にマッサージしてあげるのがわたしとリリーの日課だったから、よくわかる。
そして、突然入手困難になってしまった材料は、レッドリザードの尻尾らしい。
レッドリザードとは魔物にしては小型の赤いトカゲで、その尻尾には血行促進や温熱効果があり、主に医療の現場で使われる薬や道具の材料となっている代物だ。
あまり好戦的ではないおとなしい性格のために飼育が可能で、尻尾は切ってもまた生えてくるため、確か国内にレッドリザードの牧場があったような気がするのだけど…?
「うん、普段なら注文すればすぐにその牧場から届くはずなんだけど、何かトラブルがあったみたいなんだ。ステーシアさん、その件について何か知らないかと思って」
牧場があることなら知っていたけど、さすがに近況までは…ん?たしか牧場の場所は…。
「ねえ、レッドリザードの牧場って、西方の国境の山だったわよね?」
ルシードが、うんうんと頷く。
「じゃあ、コンドルに聞いてみましょうよ。コンドルの実家、あの辺りだから何か知ってるかもしれないわ」




