エピローグ~とある歴史学者の研究~
大陸の東端に位置する小国、ウィンザム王国には「偉大な名君」と称される国王が数名いる。
そのひとり、第18代国王、レイナード・アレクセイ・ウィンザムは「麗しの君」と呼ばれ、すべての国民から敬愛されていたという。
容姿端麗でダンスも華麗、人を引き付けるカリスマ性があり、正義感が強くて貴族の不正を許さない清廉潔白な王だった。
今でこそ「かっこいい」と子供たちが憧れる山賊だが、昔は山賊といえば乱暴狼藉を働く薄汚いただのゴロツキだった。そのイメージが払拭されたのがレイナード王の時代だったという。
レイナード王は、山賊を諜報員として抱き込み、さらには「ロマンス小説の巨匠」と言われているリリアン・Dの著作「婚約破棄から始まるシリーズ」「山賊のお頭シリーズ」を積極的に周囲に売り込み、意図的に山賊のイメージアップを図ったのではないかとも言われている。
また、海賊とも個人的な親交があり、海上交通も貿易も安全に行えるという、山賊にも海賊にも脅かされないとても平和な時代だった。
さらに周辺諸外国からは、「あの国には国境に、大きなコンドルの羽が生えた鳥人間がいるらしい」「王都には炎の剣を振り回すゴリラがいるらしい」と恐れられ、一目置かれていたという。
ゴリラといえば、レイナード王が王太子時代に設立した王立魔導具工房が、直轄領である旧フェイン侯爵領跡地にあるのだが、この領内でゴリラと尋常ではないスピードで走る「何か」が戦っているのを見たという伝承が残されている。
王立魔導具工房の初代所長、ルシード・グリマンは我が国ではその名前を知らぬ者はいないというほど高名な魔導具師であり、兄のディーノとともに数多くの魔導具を生み出して国民生活の利便性を向上させることに寄与した偉大な発明家だった。
輝かしい功績を多く残したレイナード王だったが、彼の家庭生活に関しては「子だくさんだった」ということ以外あまり語られることはない。
それは、妻であるステーシア妃があまり表舞台に登場しなかったせいだ。
ステーシア妃はかなり破天荒な人物だったようだ。
建物の二階から飛び降りても怪我ひとつなかった
カモを溺愛していた
ゴリラと戦って勝ったことがある
夫の側近をいつも踏み台代わりに使っていた
「前世は山猿だった」が口癖
騎士団とトラブルを起こし出入り禁止になった
生徒の顔面に膝蹴りを食らわせて魔導具科から出入り禁止を言い渡された
猛毒を持ち歩いていた
性欲が強く毎晩求めていた
ざっと挙げただけでも人間性を疑うような逸話ばかりが残っている。
ステーシア妃と政略結婚したレイナード王は恐妻家である反面、ちゃっかり赤毛の女性と愛人関係にあったと言われている。
この赤毛の女性はレイナード王を陰で支え続けた諜報員の一人だった。
黒髪の諜報員が、元山賊のリーダー、キース・マルダであることはよく知られている(リリアン・Dのロマンス小説に登場する山賊は彼をモデルにしたという噂もある)が、赤毛の女性に関しては関係者が頑なに彼女の素性を隠したために名前すら判明していない。
それがつい最近になって、ある歴史学者が「赤毛の女性の正体はステーシア妃だった」と結論付ける論文を発表した。
当初学会では、この仮説は相手にもされていなかったが、国内外に散らばる赤毛の諜報員の逸話とステーシア妃の年表を並べてみると、ステーシア妃の出産前後と赤毛の女性の活動が途絶えている時期がぴたりと一致した。
また、レイナード王の多くの輝かしい功績の裏に、実はステーシア妃が深く関与していたことも明らかになったのだ。
こうして、世間が抱くステーシア妃の人物像はがらりと変わった。
自ら暗躍して国内外を駆け回って名君を支え、平和を守り続けた彼女こそ、偉大な国母であり王国の盾であった、と。
―END―
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