その後
その後、レイナード王太子の主導で「貴族としてあるまじき行為」を犯した家門への粛清が行われた。
領地を全部、あるいは一部没収となったり、強制的に当主の代替わりを命じられた当事者たちにその理由を尋ねても、皆一様に口が重かった。
議会で、度が過ぎた粛清だと噛みつく貴族たちを前に、王太子は臆することなく
「やましいことがなければ怖がることはないはずだ」と言い放ち、
学のない山賊の覚書など信用できないと噛みつかれれば、彼らのメモがいかに緻密で丁寧に記録されたものであったかを語り、
「一般的に学がないゴロツキだと思われている山賊たちですら文字の読み書きができるというのは、我が国が長年にわたり力を入れて来た識字率向上政策の賜物で、とても誇らしいことだ」と言ってにっこり笑ったという。
そして、キースというリーダーが率いていた山賊団は解散し、彼らのこれまでの犯罪は、王太子の婚約者の命を救った功績により恩赦となったことと、現在その一部の者たちが王室の諜報員として働いていることも明かされた。
「彼らは隠密行動に秀でている上に記憶力も良い非常に優秀な諜報員だが、先程も言ったように、やましいことが何もない者にとっては害のない存在だから、安心してくれ」
そう言って悠然と微笑む王太子に、ある貴族は新たな時代の到来を感じて胸を高鳴らせ、またある貴族は表情を凍り付かせたという。
カインから「こんなことがあったらしい」と執務や議会でのレイナード様の様子をかいつまんで聞いても、いまいちピンとこない。
おそらく「キラキラ王子様」の仮面だけではなく「議会用腹黒王子様」の仮面も持っているのだろう。
今回の議会は骨が折れた、ああシアに触れていると癒される、と言いながら中庭のベンチでわたしにもたれかかり、甘ったるく微笑むレイナード様の手を握り、「お疲れさまでした」と労った。
「議会の大変さも知らずに、わたし先日…その…子作りを毎日とか言ってしまって…」
なるべく早く例の件を訂正しておかなければと思いつつ、レイナード様が議会で多忙を極めて学院を休みがちだったために、なかなか言い出せなかった。
今がチャンスよ!
勘違いしていました、と言おうとした瞬間、レイナード様がシャキッと体を起こして姿勢を正した。
「シア、心配しなくていいよ。議会の間も毎朝鍛錬は欠かさなかったんだ。だから大丈夫だ」
「いや、あの…わたしね、天使が…」
「うん、俺たちの子供はきっと天使のようにかわいいだろうね。毎日でも一日中でも大丈夫だよ。愛しい妻の望みを叶えるのが夫の務めだからね」
ええぇぇぇぇっ!?
どう言えばわかってもらえるの?
レイナード様の肩越しに見えるカインとリリーに目で訴えても、二人とも肩を震わせて笑いを堪えているだけで助けてくれる気配がない。
そんな二人の様子を知ってか知らずか、レイナード様はお構いなしに頬をほんのり赤く染めながら嬉しそうに笑った。
「シア、二人でこの国をもっと良くしていこうね」
こうしてわたしは結局、円満な婚約破棄には至らず、一流のタンクにもなれないまま婚約を続行し、この1年半後に大好きなレイナード様と夫婦になったのだった。




