閑話・コンドルがコンドルになった日2
3か月待ちだったはずのルシードが抱えていた魔導具の注文は、ディーノが手伝うことで格段に製作効率がアップしたらしい。
魔導回路の設計図を引くのが得意なディーノと魔法付与が得意なルシード、とてもいいコンビのようだ。
二人が仲良くなって本当によかったと思う。
その浮いた時間を利用し、魔導具科のほかの生徒たちも一丸となって完成したのが「コンドル1号」だった。
「どうしよう、怖い」
コンドルが泣きそうな顔をしている。
「いい提案があるわ!ここでこっそり、入れ替わるっていのはどう?コンドルの代わりにわたしが…」
「待ていっ!」
コンドルの震えが止まった。
「ありがとな、赤毛。嘘でもそうやって俺を助けようとしてくれるおまえは、最高の友達だ」
コンドルがくしゃっと笑った。
いや、わたし本気だったんだけれども。
屋上から下へ、準備OKの合図を送ると、魔術科の生徒たちが一斉に風魔法でほどよい塩梅の上昇気流を発生させてくれた。
「押すなよ。自分のタイミングで行くから、ぜえぇぇぇったいに押すなよ?」
コンドルが屋上の縁に立った。
「…それ、押せってこと?」
「違うにきまっ…!うわぁぁっ!」
わたしを振り返ったコンドルが足を滑らせ、妙な体勢で宙に飛び出し落下していく。
「コンドル!大丈夫よ!あなたはコンドルなんだから落ち着いてっ!!」
声の限りに叫ぶと、どうにか体勢を立て直したコンドルが上昇気流に乗ってふわりと浮いた。
そのまま大きな螺旋を描いて気流に乗り、屋上よりも空高く舞い上がったコンドル1号に、「わあっ!」という歓声が上がる。
コンドルが笑っている。
すごいわ!やっぱりあなたはコンドルなんだわ!
コンドル1号はゆっくりと旋回しながら高度を落とし、運動場へ着地した。
生徒たちが駆け寄り、労いと祝福の言葉をコンドルに投げかけているのが見えた。
この日、コンドルことフレッド・ハウザーは、正真正銘のコンドルになったのだった。
********
王立高等学院の魔導具科の生徒たちによる魔導飛行機、通称「コンドル号」はその後も改良を重ね、より安全に誰でも飛行できるようになっていった。
乗り手の第一人者であるフレッド・ハウザー辺境伯は、本名よりも「コンドル伯爵」という通称名で呼ばれることが多かった。
彼は、辺境警備のパトロールにこのコンドル号を使用するだけでなく、通常ならば人の近寄れない切り立った岩場の魔物の巣から魔導具作りの貴重な素材を入手してくるのも得意だった。
このコンドル伯爵の元をたまに訪れる赤毛の女性がいたという。
二人で仲良く飛行を楽しんでいる様子を見た者たちが、自分も空を飛んでみたいと希望するようになり、それに応える形でスカイスポーツの礎を築いたのもまたコンドル伯爵だった。
あの女性は何者なのかと尋ねられると、コンドル伯爵はきまって
「赤毛は、俺の命の恩人だ」
と言って少年のようにくしゃりと笑い、家族にすら終ぞその素性を明かすことはなかったという――。




