兄弟4
「でもなあ、嬢ちゃん。俺がこんなこと言うのもヘンだけどよ、こんなに簡単に山賊を受け入れたりしたら、この噂を聞きつけて悪いやつらがわんさか来るかもしれないから気を付けた方がいいぞ?」
5つ目の丸パンをペロリと平らげながらジェイがそんなことを言う。
いくら柔らかいパンが久しぶりだからって、朝からよく食べるおじさまだわ。
わたしたちは、離れの別室で朝食を摂っているところだ。
「大丈夫です。うちの執事、物腰が柔らかくていかにも優男って雰囲気だけど、脱いだらすごいんですから!細マッチョよ!それに、お医者様たちもそうですよ?人質に取ろうとか考えたらひどい目に遭っちゃうんだから」
ビルハイム家お抱えの医師たちは、職業柄怪我が絶えない一族の治療に昼夜を問わず追われているために、ヒーラーとしてとても優秀だ。
そして、それだけではない。
本人たちもまた、紛れもなく脳筋で常に臨戦態勢、「来るなら来い!」という武闘派なのだ。
ふふっと笑うと、ジェイの顔が少し引きつった。
「ビルハイム家の馬車は何があっても絶対に襲うなって仲間に言い聞かせておかねえとな」
紅茶で喉を潤してから、少し声のトーンを下げる。
「何の仕事だったんですか?いきなり切り付けられたって聞いたけど」
ジェイは6つ目の丸パンを牛乳で胃袋まで押し流すとようやく満足したらしく、ナフキンで口元を拭くとわたしと同様、声のトーンを落とした。
「毎年仕事の依頼をしてくる貴族様だったから、どうせまたいつもの馬車を襲ってくれっていう依頼だろうって油断が俺たちにもあったんだ。金を受け取って日時を確認したら即解散…そう思ってた。それなのに、いつもとは違うやたらと目つきの悪い男たちを連れていてよお、お頭は俺を庇ったせいで左腕を切られたんだ」
ジェイは大きな背中を丸めてしょぼくれている。
「先生に、ナイフに毒が塗ってあったんだと思うって言われてゾッとした。あいつら、最初から俺たちを始末するつもりだったんだって」
その貴族の名前を聞いて驚いた。
フック伯爵家――品行方正で領地経営も実直だと言われているけれど、そうであるがゆえに悪人たちからは嫌われてしまうのか積み荷を奪われることがよくあり、毎年のように救済措置が適用されて収穫物の納付を免除されている家門だとお妃教育で習ったはずだ。
それがまさかの自作自演!?
「それ、何か証拠はあります?」
前のめりに聞いてしまう。
ジェイはポケットから小さな手帳のようなものを取り出した。
「過去のいろんな交渉事は、ここに記録してある。依頼人と内容、報酬の受け取り場所と日時、金を持ってきたヤツの人相」
そこには本人しかわからないような暗号のような記号で、びっしりとあれこれ記されている。
元商人らしいマメさだ。
このメモを元に調査すれば罪は暴かれるに違いないけれど、山賊だってその共犯者だ。
きちんと法律で裁きを下すために、私的な報復はせずに調査に協力してもらいたいところだが、それは難しいかもしれない。
これはレイナード様の力を借りなければならないわね…。
そう考えている時に、扉がノックされてレイナード様が入って来た。
言付けを聞いて、来てくれたようだ。
レイナード様の後ろには、ルシードもいた。
「馬車の中で大まかには話したよ。そのくつろいだ様子から察するに、安心できる状況ってことでいいのかな?」
ルシードの顔は青ざめている。
実の兄が見つかったことや、その兄が大怪我を負って意識不明の状態でビルハイム家に担ぎ込まれたと聞けば誰だって混乱と不安でそうなるだろう。
「兄さんは?」
小さく震える声で問いながら、ルシードはメガネを外し目に溜まった涙をぬぐった。
ジェイは、ルシードの姿を見て驚いている。
「俺がお頭と初めて会ったときの…8年前のお頭にそっくりじゃねーか」
「お頭の弟のルシードですよ」
「いや、だって、騎士団長に食べられて…」
だから、食べるわけないでしょう!




