鑑定1
王立高等学院は、ある程度「無礼講」となっている。
その理由は、ここの生徒の中には貴族ではない平民もいるためだ。
王太子と机が隣同士になったがために、無礼なことはしていないかとビクビクして勉強に集中できないということがないようにという配慮で、学院内ではフランクな言葉遣いや付き合いをしていいことになっているし、教師も身分や出自に関係なく生徒に接することが義務付けられている。
この「ある程度」の匙加減が難しくて、実家の身分が高い者ほど「俺は公爵家の長男だぞ!」という風に出自を振りかざしたがる傾向がある。
貴族であれば親がお金に物を言わせて入学できるこの学院の授業料は平民には到底支払えない金額なわけで、この学院に通う平民出身の生徒は全員とても優秀な学費全額免除の特待生だ。
我が国は教育熱心なことで有名で、国王陛下の直轄領だけでなく、各地に王立の「初等学院」がある。
運営は税収で賄われており、初等教育は国民全員が無償で受けられる仕組みになっているため、我が国の識字率は高水準を維持している。
高等学院は、初等学院で学問や魔術など、さまざまな分野で優秀であると認められ学院長の推薦を受けられれば特待生として学費も生活費も無償で卒業まで学べるシステムになっている。
そしてこの高等学院には、入学試験のかわりにおもしろいテストがある。
それが、鑑定士による「適正鑑定」だ。
将来、どういった職業に適性があるのかというのを鑑定してもらうのだ。
これは特に、専門職を家業としている家門の子供にとっては大きなプレッシャーになるらしい。
王室付の魔術師を継がなくてはならないのに、魔術師という鑑定結果が出なかったらどうしようか…という具合に。
しかし鑑定結果を、たとえ国王陛下に尋ねられたとしても正直に答えなくていい規則になっているし、その結果通りの職業に就かなくてはならないという拘束力も一切ない。
ただし、鑑定結果を偽って利益や高い地位を得るようなことをすれば、法律で罰せられる。
ある時代の、のちに国王となる王子は鑑定結果が「牛飼い」だったらしい。
彼はそれを誰にも口外せず、思い悩んだまま自分の胸にしまって国王の座を継いだが、牛の飼育に関して「放牧」という方法を用いた方が乳も肉も品質が向上するということを突き止め、これによってこの国の牛は諸外国に高く売れるブランド牛となったことや、国民の食生活が豊かになったことで名君と称賛されるようになった。
そうなって初めてこの国王陛下は、過去の笑い話として「高等学院の入学鑑定は牛飼いという結果だった」と公表したんだとか。
この鑑定制度のおもしろいところは、初等学院卒業時に学院長の推薦を受けられなかった平民の生徒たちにも鑑定を受けられるチャンスがあるという点かもしれない。
その鑑定結果がユニークなものだったり、これはと認められた場合は、鑑定士から高等学院への進学をすすめられるらしい。
鑑定結果は本人にだけ口頭で伝えられる。
それは結果のみで、理由や意味は一切説明してもらえない。
結果を聞いて戻ってくる生徒の表情は悲喜こもごもだった。
大声で「やった!俺も魔術師になれる!」と喜んでいる生徒もいれば、「コンドルってなんだよ。それ職業か?そもそも人間じゃないよな?」と呆然としている生徒もいた。
コンドル…たしかに彼の10年後が気になる鑑定だ。
「32番、こちらへ」
ようやく自分の順番が回って来たときに、呼ばれた番号と、持っている木札に書かれた番号が一致することを再度確認して、緊張しながら部屋の中へと入った。
目の前の机にこちらを向いて座っているらしい鑑定士の顔はわからない。
机の向こう半分が黒い布で仕切られているためだ。
鑑定士が恨まれたり、後にあれこれ問い詰められることを避けるため、そしてこちらの顔や名前から忖度されることがないようにという配慮らしい。
過去にこの人は「鑑定士」という結果をもらったんだろうか…そんなことを考えながらイスに腰を下ろした。
事前に説明を受けた通りの手順で、無言のまま仕切り布の向こうに両手をてのひらを上にして差し出す。
もしも仕切り布をめくろうとしたり、鑑定士に何か話しかけようとすればその時点で一発アウトの「不合格」になると聞いているため、決して口を開かないように心がけて、なぜか目までつむった。
向こう側から「ほうっ」という感心したようなため息が聞こえた。
「星3の盾役です」
結果を聞いて、わたしは飛び上がりたくなるのをこらえながら部屋を後にした。
通常「星いくつ」と言われない場合は「星無し」で、星は増えるほどその職業を極めるレベルが高いことを表している。
上限は「星3つ」
つまりわたしは、超一流のタンクになれる適性があるという結果が出たということだ。
ちなみに長兄は「星1の剣豪」、次兄は「弓使い」という結果だったと聞いている。
これに超一流タンクが加われば、最強の布陣なのではないだろうか!?
脳筋集団・ビルハイム伯爵家にとってはなんとも名誉なことだ。