レイナードの告白5
遅くなりました><
食事を終えた後、自室のソファで向かい合ってレイナード様からの申し開きを聞いた。
レイナード様の口から語られたナディアと海賊との恋の話はまるで、かつて図書室で読んだロマンス小説のようで、このまま上手くいきますようにと願わずにはいられない。
そうとは知らずに嫌な態度をとって、しかもお別れも言わなかったことを申し訳なく思う。
実はわたしもナディアも、二人とも「悪役令嬢」になりたがっていただなんて、なんて滑稽なのかしら。
でもね!
話を聞かずに逃げ回っていたわたしにも確かに非はあるかもしれないけれど、ナディアとあんなにイチャコライチャコラしてわたしのことを蔑ろにしておきながら、「恋人同士のフリをしていただけ」と言われて「あら、そうだったのね、よかったわ」なんて言える人格者なんているんだろうか。
「レイはナディアとのことを『花を愛でるのと同じ程度の感情しかなかった』って言うけど、あんなふうに触れてさえもらえていなかったわたしは、お花以下だったってことなんでしょう?」
「えっ!いや、そうじゃなくて…」
焦るレイナード様の言葉を遮って続ける。
「今回、あなたのことを庇って行方不明になってから急にベタベタし始めたのは、どういう心境の変化なのかしら。死んだと思われてやっと、お花並みになれたってこと?」
嫌味っぽい言い方になってしまったのは許してほしいわ。
だってわたし、怒っているんですもの。
「ちがう。そうじゃないよ、シア」
レイナード様は悲し気に眉根を寄せている。
「きみは俺にとっていつだって最上級なんだ。物心ついた時からずっとシアが好きだった。好きすぎて、まぶしすぎて、恥ずかしくて、好きだって言えなかった。それに、大事にしすぎて触れることもできない臆病者だった」
「でもね…」そう続けてわたしを真っすぐに見つめてくるマリンブルーの瞳に、またもや妙なスイッチが入ったような気配を感じた。
「いつでも言えるから、いつか言おうと思っていたのが間違いだった。当たり前にいつもそばにいられるわけじゃないってことが今回のことでよくわかったんだ。これからは言葉でも態度でもわかりやすくしっかり示していこうと思う。だから覚悟してね」
ええぇぇぇっ!
覚悟とは!?
レイナード様はわたしが戸惑っている間に立ち上がると、わたしの前で片膝をついて跪き、かつて婚約の申し込みをしたときよりも、うんと大きくなった手でわたしの手を握った。
「好きだよ、シア。これからもずっと一緒にいてほしい」
ずるいわ、そんな懇願するような目で見つめてくるだなんて。
「ひとつお願いがあります」
そう言うと、レイナード様は「なに?」というように首をかしげた。
「もしもまた誰かに恋人のフリをしてほしいって頼まれても、もう二度と引き受けないで」
「わかってる。もう二度としないと約束する。たとえ国益のためであっても、もうこりごりだ。次はシアとカインに相談して別の方法を考える。何も言わなくてもシアはわかってくれると己惚れていた自分の浅慮が恥ずかしいよ」
「わたし…」
声が震える。
「レイとナディアが仲良くしているのを見て、怒ったり悲しんだり、みっともなく嫉妬したり、すごく嫌だったんだから!」
滲んでいく視界の中でレイナード様が立ち上がり、わたしの横に座った。
「そうか、ごめん。でもシアが嫉妬してくれていたなんて、ちょっと嬉しいな。それはつまり、俺のことが好きだってことだよね?」
「そうよ、わたしだってずっと前からレイが大好きだったわ」
涙と共に叫ぶように自分の気持ちを吐き出した直後、肩をグイッと引き寄せられて、気づけばレイナード様の腕の中にいた。
「もうこれから先は、シアに辛い思いはさせないと誓うよ。一生をかけてそれを証明してみせる。俺だってずっとずっとシアだけが大好きだったし、それはこれから先も変わらない」
耳元で甘いささやきが響く。
どういうわけかわたしは、レイナード様の前では泣き虫になってしまったようだ。
レイナード様は、わたしの涙が止まるまで、それはそれは優しく丁寧に背中と髪を撫で続けてくれたのだった。
「ねえ、額をくっつけ合うのって…」
「ん?これのこと?」
レイナード様は、うれしそうに笑いながら額をくっつけてくる。
近いっ!近すぎますっ!!
「レイはナディアとも、こんなことをしていたの?」
両手でレイナード様の胸を押して、距離を取った。
食事の前に気になっていたことだ。
モヤモヤするぐらいだったら聞いた方がいい。
「さすがにしてない。これは距離が近すぎる」
レイナード様が嘘を言っている様子はない。
だったら、一体どこで…と思ったら、驚くことを言われた。
「今も昔もこれからも、こんなことシアとしかしないよ?」
え?昔?
わたしたち、こんなイチャコラなんてした経験はなかったはずだけど?
「子供の頃のシアは、勢いが良すぎてちょっと痛かったけどね」
レイナード様は、ふふっと笑って再びわたしを抱きしめる。
ああ、それは…ただの頭突きのつもりでした――この雰囲気でそう白状するのはさすがに憚られて、レイナード様の腕の中でおとなしくなってしまうわたしだった。




