レイナードの告白2
ちなみに、気になっていたグリフォン安否だけれど、母親が救出に来て子供のグリフォンを大きな鍵爪で掴むと、こちらを攻撃することなく飛び去って行ったらしい。
騎士団も生徒も重傷者はなく、コンドルことフレッド・ハウザーが爪で掴まれたときにできた傷と、グリフォンの風圧で吹き飛ばされてできた打撲傷が数名で済んだようだ。
グリフォンに生徒ひとりが襲われた上に、わたしが崖から沢に落ちて行方不明になってしまったことでキャンプどころではなくなってしまい、生徒たちはその日の日没までに急いで下山して解散となったらしい。
王太子殿下がお忍びで参加、という情報は騎士団の方にも入っていたらしく、例年よりも指揮にあたる騎士を増員していたことが幸いして、被害を最小限に食い止められたようだ。
しかし、王太子殿下の婚約者も参加しているという情報は入っていなかった。
おまけにその婚約者が王太子を庇って沢に落ち、流されてしまったと聞かされた騎士たちが受けた衝撃と、その後の大騒ぎがどのようなものであったか想像するだけで恐ろしい。
だからといって、あそこでレイナード様を助けていなかったら、もっととんでもないことになっていたわけで、その点ではわたしのしたことは間違っていなかったと思う。
ただ、反省すべき点もたくさんある。
もしかしてわたし、トラブルメーカーなのかしら。
わたしのせいで、お父様やお兄様たちのお仕事に差し障りがあったらどうしよう。
どうしていつもこんなことになってしまうんだろう。
穏便で円満な婚約破棄を目指していたはずなのに、大騒ぎになってしまった…。
わたしの膝枕で眠っているレイナード様の頬に雫がぽたりと落ちて、自分が泣いていることに気づいた。
慌てて指で拭おうとその頬に触れた時、レイナード様が目をパチリと開けてわたしを見上げ、驚いたようにガバっと体を起こした。
「シア!なんで泣いてるんだ?」
レイナード様がオロオロしながら大きな両手でわたしの顔を包んで覗き込んできた。
そしてこれまたタイミングが悪いことに、そのときに馬車が止まり、自宅の門で待ち構えていたと思われる長兄のレオンが馬車の扉を開けたのだ。
目に飛び込んできた光景に、レオンは瞬く間に気色ばんだ。
わたしがレイナード様に泣かされていると思ったのだろう。
「貴様っ!妹から離れろっ!!」
馬車の中に乗り込んできてレイナード様に掴みかかろうとするレオンの顎を、わたしは咄嗟にカモちゃんで蹴り上げた。
レオンは綺麗な放物線を描きながら吹っ飛び、地面に大の字で倒れたのだった。
やった!
ゴリラに勝ったわ!
先ほどのまでのしんみりした気持ちはあっという間に吹っ飛んで、わたしは一人で馬車から飛び降りると
「レイナード様に乱暴なことしないで!」
とレオンを見下ろして仁王立ちになった。
これ以上我が家門の心証が悪くなれば、レオンの次期騎士団長就任の道が閉ざされてしまう。
それではマリアンヌに申し訳が立たない。
レイナード様!乱暴なゴリラはわたしがこらしめておきましたからっ!
少し離れた位置に立つ父が無様にひっくり返るレオンを一瞥して「鍛錬が足りんな」とつぶやき、その後ろでは次兄のスタンが大笑いしていたのだった。




