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【書籍化】円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語  作者: 時岡継美
本編

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山賊2

 至近距離でよく見ると、山賊のお頭はずいぶん若い男で、しかも綺麗な顔立ちだった。

 黒髪に漆黒の瞳。

 どこかで見たことがあるような…?


 わたしは、騎士団の訓練で山へ来ていたのだがグリフォンの風圧で吹き飛ばされて激流に流されたと簡単に説明し、助けてもらったお礼を言った。


 騎士団のキャンプと聞いて、わたしが貴族の令嬢であることピンときた様子ではあったけれど、家名は聞かれたなかったから「ステーシアです」とだけ名乗っておいた。

 お頭のほうも「俺はここら辺一帯の山賊を束ねているキースだ」と名前を教えてくれた。


 昨日の夕方近くに、この辺りにはめったにいないはずのカモたちが沢でガーガー騒いでいるのを聞いて不審に思った彼らが見に行ってみたところ、浅瀬で水に浸かり、シャツを真っ赤に染めて気を失っているわたしを発見したんだとか。

 それからほぼ丸1日、わたしは眠り続けていたようだ。

 


「今年、あっちの岩山にグリフォンが巣を作って子育てをしてるんだ。巣立ちに向けて餌を捕る練習をしていたんだろうな。デカイほうはたぶん、母親だ」


 親子…それを聞いてしまうと、あの小さなグリフォンがどうなったのか気になってしまう。

 さあ騎士様たち、やっつけてちょうだい!と思いながら誘導してしまったけれど、そうと知っていれば追い返す方法もあったかもしれない。


「知らなかった。こんな近くにグリフォンが棲みついているんですね」

「いや、グリフォンは群れを作らずに単独で行動する生き物だから、ずっと同じ場所にいるわけじゃない。子育てをする巣をたまたまあそこに作ったってことだ」


 さすが山で暮らしているだけはある。

 キースはおそらく20代半ば、レオンお兄様と同年代だと思うけれど、魔物のことにも詳しそうだし、この若さで山賊たちを束ねているのは大したものだ。


「なるほど、騎士団のリサーチ不足というわけね」


 事前に周りをぐるっと下見ぐらいはするのだろうけど、毎年同じ場所でキャンプをしているから当然今年も何事もなく終わるだろうという慢心があったのかもしれない。

 近くの岩山でグリフォンが子育てをしているという情報は入らなかったのだろうか。


「あなたは、毎年騎士団があの場所で学生を集めて野営訓練をしていることも、今年に限ってはグリフォンが近くの岩山にいることも知っていたんですよね?人が悪いわ、事前に忠告ぐらいしてくれたっていいのに」


 キースはくつくつと喉を鳴らして笑った。

「人が悪いも何も、俺らは悪者のゴロツキだけど?」


 たしかにそうだったわ!



「あなたたち、そういうことをお仕事にすれば今よりラクにお金が稼げると思いませんか?わたし、山賊の人気向上計画を考えていたところなんですの!」


「はあっ!?」

「お頭、やっぱりこの嬢ちゃん、頭おかしいんじゃ…」


 断じておかしくなんか、ないっ!



******



「なぜ海賊は人気者でかっこいいのに、山賊はただのゴロツキで終わってしまうのかだと?知るかっ!」


 そんなことを言いながらも、キースはわたしの話を聞くだけの度量を見せてくれている。

 まともな神経をしていない本当の悪人なら、聞く耳すら持たないだろう。


「海賊は、人助けもするんです。男気があって気前が良くて見た目もかっこいい!弱きを助け悪を挫くその姿に惹かれるんです。それに引き換え山賊はどうです?ボロボロの服を着て、臭くて、数々の乱暴狼藉を働く卑怯な小物でしょう?」


「いや、待て。それは世間一般のイメージであって、実際は海賊にもひどい奴らはいるんじゃないのか?」


 キースの憮然とした顔を見て、うんうんと頷く。

「その通りです。実際は極悪非道な海賊もいるはずなのに、物語でかっこよく描かれている海賊像というものが世間的に広まっていて、いいイメージが強いから海賊は人気者なんです。だから山賊もイメージアップをはかりましょうよ」


 そう、イメージ戦略はとても大事だ。

 レイナード様だって、中身は子供っぽくて怖がりなのに、人前では「完璧な王太子殿下」という仮面をかぶっているおかげで、「美しさと強さを兼ね備えた素敵な王子様」だと言われて大人気だ。


 わたしも完璧な婚約者像を押し付けられて、そのイメージを損なわないように頑張っていたんですもの。

 彼らだって、「山賊は実はいい人たち」という目で見られるようになれば、山道で山賊に襲われる血なまぐさい事件が減るんじゃないかと思うの。


 これが、わたしがあの日からずっと考えていた「山賊対策」だ。


「くだらない。俺たちが善い行いをしてイメージアップして何の得がある。おまえら貴族が襲われたくないからって『いい人』を押し付けるな」

 キースは黒髪をガシガシ掻いて呆れている。


「簡単に襲えそうな馬車しか狙わないんでしょう?弱い者いじめなんて卑怯よ。試しにビルハイム伯爵家の馬車を襲ったらいかが?」


「お頭、ビルハイムって言えば、騎士団長の名前ですぜ」

 ダークグレーの髪の手下、ジェイが口を挟んできた。

「俺たち山賊を見つけたら、大人なら片っ端から殺して、子供なら連れて帰って大鍋で煮て食べているって噂の」


「ああ、知ってる。俺の弟も、10年前にそいつに食われたはずだ」


 ちょっと!

 食べるわけないでしょう!?


 どうやら山賊業界では、お父様のイメージは最悪で、「鬼畜」だと思われているらしい。






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