山賊1
パチパチと焚き木が弾ける音が聞こえる。
瞼を開けると、視界がクリアになるまでしばらく時間がかかった。
音のする方向に首をひねると、焚火を囲んでいる大きな体の男の姿が見える。
ボサボサのダーググレーの頭髪とヒゲは、生まれ持っての色なのか、汚れでその色になっているのか区別がつかない。
衣類も、袖口がギザギザに破けている様子からして年季の入ったものを着ている様子だ。
ここが天国か地獄かと言ったら地獄寄りなんでしょうね…。
だけど、この男の所属先は天国でも地獄でもなく、おそらく山賊だわ。
意識がはっきりとしてくると同時に、背中と肩が痛んだ。
地面に直接むしろを敷いて、その上に寝かされているらしい。
まるで厩のような粗末な小屋の中にいることも確認できた。
小さな窓から見える外の景色は薄暗い。
いきなりガバっと起き上がると、この男が驚いて攻撃してくるかもしれないから、まず声をかけようと思ったのだけれど、口の中がカラカラで掠れてしまった。
「……あ…」
男はそれに気づいて、体を横たえたままになっているわたしの顔を覗き込んできた。
「おう、目が覚めたか、嬢ちゃん」
「…み…ず…お水もらえませんか」
「わかった、汲んできてやるから待ってな」
男はニッと笑うと小屋を出て行った。
あら、意外といい人ね、よかったわ。
体を起こそうと足を動かして、ブーツを履いていないことに気づいた。
ええぇぇぇっ!
カモちゃんは!?
レイナード様を助けて、激流に落ちて流されて…今に至る。
まさか、カモちゃんは流されちゃった?
戻って来た男から木のコップを受け取り、お礼を言って喉を潤すと、まずカモちゃんのことを尋ねた。
「カモちゃんは!?」
「へっ?カモ?」
「わたし、ブーツ履いていませんでした?」
「ああ、ブーツなら乾かしてるぜ」
男が焚火の近くからブーツを持ってきてくれた。
それをひったくるように受け取って胸に抱きしめる。
「カモちゃん、ありがとう!よかった、流されてなくて!」
「カモって…それブーツだろう?」
怪訝な顔で聞いて来る男に、このブーツはとってもお利口なカモなのだと説明すると、ますます怪訝そうな顔をされてしまった。
「目を覚ましたって?」
背の高い黒髪の男が小屋に入って来た。
「お頭ぁ、どうもこの子、頭おかしいんじゃないですかねえ。ブーツを抱きしめて『いいカモだ』とか言ってますぜ?」
いや、あなたの言う「いいカモ」は、たぶん意味が違うと思うわ。
「頭がおかしいなら、慰み者になってもらうしかないかもな。見てくれはいいから高く売れるだろ」
オカシラと呼ばれた黒髪の男が、わたしの顎をクイっと掬って上を向かせる。
待って!わたし、頭おかしくないからね!
もしかして、わたしが気を失っている間に…この男たちに何かされてないわよね!?
わたしの動揺を見透かしたのか、お頭がフッと笑った。
「安心しろ。まだ何もしてない。血まみれの女を抱く趣味はないからな」
――っ!
血まみれですと!?
驚いて自分の体をよく見ると、シャツが真っ赤に染まっていた。
それにギョッとした次の瞬間、亜麻色の髪が見えて、この赤い色が変装のために髪を染めていた染料であることに気づいた。
彼らに助けられたときにどういう状況だったのかはわからないけれど、たぶん浅瀬で水に浸かったままになっているうちに染料が取れてシャツにしみこんでしまったのだろう。
「頭から出血していて、ここに連れて来た時にはもう止まっている様子だったんだが、打ち所が悪かったか…」
いえ、大丈夫ですから。




