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【書籍化】円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語  作者: 時岡継美
本編

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騎士団の体験訓練・後半4

「ちょっと来て」

 有無を言わさぬ調子でわたしの手を引っ張って集団から離れ、木立の中へと連れていかれる。


「え、あの…ちょっと!勝手な行動はダメですよ」


 レイナード様は木立を抜けたところでようやく手を放した。

 そして、振り返ってため息をつくと、わたしの胸元へ手を伸ばしシャツのボタンを留めてくれた。

 

 あら、必死だったから胸をチラ見せしたままだったことを忘れていたわ。

 わざわざボタンを留めるためにここまでわたしを引っ張ってきたのかしら?


「勝手な行動をしているのはきみのほうだろう。あんな危険なことをして、グリフォンにさらわれたらどうするんだ」


 いつから見ていたんだろうか。

 わたしの華麗な木登りは見てくれたかしら。

 残像ダッシュ、すごかったでしょう?


 思わず、ふふっと笑いが漏れる。

「大丈夫よ、わたしはあなたが思っているよりもうんと速く走れるし、いずれ騎士団に入ったらもっと大型の魔物の引付役として活躍することになると思うわ」


「大怪我するかもしれないだろう?綺麗な体に傷痕が残るかもしれないし、ヘタしたら死ぬんだよ?わかってるのか?」

 レイナード様は憮然としたままだ。


 なぜあなたに、そんなことを言われないといけないのかしら。

 誰のせいでこうなったと思ってるのよ。

 王太子であることを隠して、無茶なことをする訓練生に説教しに来たわけ?


「構わないわ。何も悪くないのに殺されるより遥かにマシだもの。もともと誰かに頼って守られたまま生きていくなんて性に合わなかったの。体に傷が残ろうが、片手を失おうが、仲間の命を守れるのなら本望よ」


 レイナード様は相変わらず険しい顔をしている。

「婚約者がいるんだろう?」


 だから、それはあなたのことで、しかもあなたがわたしのことを殺せと命じることになるんですからねっ!


「もういないのと一緒です。彼は他の人のことが好きだから、もうすぐ破談になる予定なの。でも、心変わりされても無理もないと思ってるから同情はいらないわよ?わたしみたいな可愛げのない女は、脳筋らしくたくましく生きていくから、どうぞご心配なく」


 どうして胸がツキンと痛むのだろうか。

 わたしはまだ、この期に及んでレイナード様のことを慕い続けているのかしら…。 


「ナディアならいま、海賊と駆け落ちする準備をしているよ」


 あまりに唐突に言われて、理解が追い付かない。

「……え?」


 問い直そうとしたそのとき、わたしたちを大きな影が覆った。

 

 ハッとして見上げたその先に急降下してくるグリフォンが見えて、そのあまりの大きさとスピードに驚いて一瞬反応が遅れた。

 

 さっきのグリフォンではない。もっと大型だ。

 つがい?それとも親子?

 あの子の鳴き声を聞いて助けに来たのだろう。


 急降下してきたグリフォンは気が変わったのか、それとも方向転換するタイミングで偶然わたしたちが居合わせただけだったのか、わたしたちには襲い掛からずに頭上でバサバサと羽ばたくと、騎士と小型のグリフォンが戦っている方向へと飛んで行った。


 その風圧で、わたしは木立の方へ軽く飛ばされ、レイナード様は反対側へと大きく飛ばされた。


 レイナード様が飛ばされた方向を見て、心臓がドクンと大きな音を立てる。

 地面がない。

 向こうは崖だ!


 お願い!間に合って!!


 すぐさま体勢を立て直すと地面を蹴ってジャンプし、レイナード様に向かって手を伸ばす。


 どうにか届いて掴んだその手をしっかり握って、片足で崖ぎりぎりの位置に着地したと同時に体をひねってレイナード様を安全なところへ投げ飛ばした。


 カモちゃん、ナイスだわ!あなたのおかげで、レイナード様を助けられたわ!


 反動で崖からダイブする形になったわたしは、宙に浮きながら崖下の沢がそこそこな激流であることを確認した。


 こういうときって、いろんなことがスローモーションのように見えて、これまでのいろんな出来事が思い浮かぶっていうけど、本当ね。


 体を起こしたレイナード様が何か叫んでいる。


 10歳のときに「婚約者になってください」と跪いて言ってくれたこと。 

 デビュタントのファーストダンスで「綺麗だよ」と言ってくれたこと。

 マカロンを頬張るわたしを見て、よく「リスみたいだね」と笑ってくれたこと。

 最後に思い浮かぶのはどれもレイナード様との甘い思い出だった。


「レイ!今までありがとうっ!」

 落下しながら叫ぶと、上から「シアっ!!」というレイナード様の悲痛な声が聞こえた。



 ああ、しまった。

 わたしがステーシアだって、バレちゃったわね。


 激流に飲み込まれながら最後にそんなことを思った――。



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