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馴れ初め3

 二十日間ほど会わなかっただけで、急に雰囲気が変わることなんてあるのだろうか。


 久しぶりに再会したレイナード様は、いつもの可愛らしい「天使の笑顔」を引っ込めて、妙に大人びた雰囲気で唇を引き結んでいた。

 さらにはこの日に限って国王様と王妃様までいるわ、こっちもわたしの両親と、さらに兄二人までついて来るわ、オールスター勢ぞろい状態で両家が向かい合っていたのだった。


 一体、今から何が行われるんだろうか!?


 わたしだけが事情がわかっておらずキョトンとする中で、突然レイナード様が一歩前へ進み出てわたしの手を取り、なんと跪いたのだ。


「ステーシア・ビルハイム嬢、どうか私の婚約者になってください」


 それはおよそ10歳の子供が言うようなセリフではなくて、それでも美の女神様の寵愛を受けているかのような美しい容姿のレイナード様が言えば、年齢など関係なくとても優美な雰囲気になってしまうところがさすがだった。

 背後に薔薇と天使が舞っているような錯覚さえ見える。


 ええっと?

 これ、わたし、どうしたらいいの?


 何も聞かされていなかったわたしは当然のごとく驚いて固まってしまい、それに見かねた長兄がそっと耳打ちしてくれた。

「謹んでお受けしますって言え」


「え?…つつ?」

「謹んで!」


 んんっ、と小さく咳払いしたにも関わらず、完全に声を上ずらせながらどうにか言った。

「謹んでお受けします、レイナード様」


 レイナード様はホッとした様子で立ち上がるとふわりと笑った。

「これからもよろしくね、シア」


 わたしは不覚にもその顔に見惚れてしまって心臓が破裂しそうになり、帰りの馬車で「どうしよう、せっかくレイの婚約者になったのに心臓がおかしい!わたし死ぬかも!」と大騒ぎしてしまった。


 すると母は優しく微笑みながら教えてくれたのだった。


「ステーシア、死んだりしないわ。それは恋よ」と。



*******



 学院の寄宿舎のベッドで目を覚ました。


 久しぶりに過去の夢を見た気がする。

 レイナード様との婚約が決まって、彼に恋心を抱いていることに気づいた幸せなあの頃のことを。



 なぜ両親が当日までわたしに婚約の申し入れのことを黙っていたのかというと――。


 婚約決定と同時に始まった「お妃教育」のせいで、わたしは騎士になれなくなってしまったのだ。

 特別な教育係が入れ替わりにわが家へやって来ては、礼儀作法の勉強やら、外国語の勉強やら、我が国の貴族たちの名簿を血縁関係まで絡めて全て覚えろやら、国際情勢の勉強やら、毎日気の休まらない目の回りそうな日々を過ごす羽目になってしまった。


 あーあ、リンゴの木に登って盗み食いしたいわー、などと言おうものなら、まず言葉遣いを訂正される。


「あら、あの赤い実はリンゴですの?わたくし、先日初めてアップルパイというお菓子をいただきましたのよ」

 もはや原型をとどめてない大幅改正だ。


 そんなこんなで、わたしは1週間で音を上げて、レイナード様の婚約の申し出を謹んでお受けしたことを後悔した。


 だから両親は黙っていたのだ。

 ヘタにわたしに考える時間を与えれば、もうおてんばなことができないことに気づいて断固拒否するだろうと。

 それならば、いきなり婚約を申し込み、舞い上がったわたしの筋肉しかないはずの脳みそが一時的にお花畑になって、あっさり受け入れてしまうように仕向けよう。

 そんな画策があったに違いない。


 そしてこれまたタイミングがいいことに、1週間で音を上げたタイミングでレイナード様との合同の勉強会とお茶会が催される。

「シア、頑張っているんだってね。僕のためにありがとう。今日のお菓子はシアの大好物のマカロンを用意したんだ。さ、食べようか」

 にこっと笑って差し出されたマカロンを遠慮がちに受け取り、眼球だけを動かして周りに作法の先生がいないか確認していると、レイナード様がくすっと笑った。

 

「大丈夫だよ、この時間は二人っきりにしてもらうことになっているから、誰の目も気にすることないよ」


 その言葉でようやく緊張を解き、いつものように足を投げ出してマカロンを一口で頬張った。

 レイナード様は、そんなわたしを「かわいいね、リスみたいだ」と笑いながら、自分のマカロンまでわたしにくれたのだった。


 こうして週イチの、いろんな意味で甘いお茶会に釣られてわたしは高等学院に入学するまでの5年半、お妃教育という苦行に耐え抜いたのだった。



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