騎士団の体験訓練・後半2
素性を偽って参加しているわたしが言えた義理ではないけれど、レイナード様は一体どういうつもりで変装までしてここにいるんだろうか。
船旅でたくさん日を浴びたのか、ほんのり日焼けしていることもあって、誰も気づかないらしい。
わたしは集合した時に後ろ姿を見ただけですぐわかった。
思わず「レイナード様?」と声をかけそうになって、そういえば自分も変装していたのだと気づいて慌てて口をつぐんだのだけれど、その時レイナード様がふと振り返って確かに目が合った気がした。
マズい!と心臓が跳ね上がりそうになったけれど、レイナード様は何も気づかなかったようで、そのまま視線をぐるっと巡らせたあとまた前を向いた。
それからは少し警戒して、なるべく離れるようにして様子をうかがっているわけだ。
お忍びで騎士団の様子を知りたいのかしら?
それとも、単純にキャンプに参加してみたかっただけ?
心配しなくても、あなたが将来この国を治める頃には騎士団長がゴリラで、優秀なタンク兼アサシンがいて、強力な火炎放射器を作れる兄弟がいるから、この国の守りは強固よ。どうぞ安心してナディアと結婚してちょうだい。
レイナード様がお忍びで参加しているのなら尚更、あまり目立つことはしないようにしなければと、カモちゃんとともに走り回りたい衝動を抑えながらテントを立て始めた。
今回の参加者の中で女子はわたしひとりだった。
前半に参加していた子たちは、憧れの騎士様と乗馬できて満足したのだろう。
キャンプって虫がいるのでしょう?柔らかいベッドがないのでしょう?そんなのイヤですわっ!そんなことを言っていたような気がする。
女子が一人ということは、今夜このテントはわたしの貸し切りってことよね?
気楽だわ~。
とはいえ、テントを一人っきりで立てるのは少々大変で、コンドルに手伝ってもらおうとキョロキョロ探しているときだった。
「手伝うよ」
声をかけてくれたのは、レイナード様だった。
もうっ、何でよりによって?
「ありがとうございます」
声でバレないように、なるべく低い声を出しながら一緒にテントを立てた。
そのあと、近くの沢に水汲みに行くときもレイナード様はわたしのそばを離れず、「持とうか?」と思わず見とれてしまいそうになる笑顔で手伝ってくれようとするものだから、「それでは訓練になりませんので」と冷たくあしらうのに苦慮した。
休憩時間になっても、レイナード様がわたしにぴったりくっついてあれこれ話しかけてくるものだから、困ってしまった。
レオンが隊長だったら、王太子殿下がお忍びで参加している目的は何なのかと確認できたのに…。
「きみは騎士になりたいの?」
「なりたいとか、なりたくないとかではなくて、騎士にならなければいけないんです。あなたのような『なんちゃって勢』ではないので」
気を悪くして早くわたしのそばから離れて行ってくれないかしらと思いながら、わざとぶっきらぼうに受け答えしているのに、なかなか引き下がってくれない。
思い返せば、こうしてレイナード様と二人きりで並んで座りながら話をするのは久しぶりだった。
なんだか胸がドキドキして落ち着かない。
「騎士にならなければいけない理由があるってこと?」
「はい、実はわたし、命を狙われてまして…」
「ええっ!誰に?」
誰にって、あなたですよ!
婚約破棄したら、わたしを殺すおつもりなんでしょう?
「婚約者に」
「婚約者がきみの命を狙っているのか?ひどい男だな」
レイナード様はなぜか笑い出した。
ええ、ひどい男なんです。
笑い事ではありませんよ、あなたのことなんですから!
「そういうあなたこそ、どうして騎士団の訓練に?」
「ああ、俺は、すぐに逃げ出す婚約者を捕まえられるように、体を鍛え直そうかと思ってね」
いやあぁぁぁっ!
いつものようにお昼に予約投稿するつもりが、寝ぼけていて朝そのまんま公開してしまいましたw
基本、お昼の12時と夜23時の毎日2話ずつ公開していく予定です。
ブックマークや評価、ありがとうございます!




