魔導具師4
足掛け3日。
ようやく風のブーツが完成する日。
わたしは今日も意気揚々とルシードの元へと向かった。
楽しみのあまり約束の時間よりも随分早く学院に到着してしまった。
ルシードはいるかしら?と思いながら研究室をうかがうと、そこにはルシードとそれを囲むローブを着た男子生徒3人の姿があった。
どうひいき目に見ても、友人同士で談笑しているという和やかな雰囲気ではない。
あれは完全に絡まれている。
しかも、わたしのことで何か言われている!
「ステーシア・ビルハイムに取り入ったって何の得にもならないぜ。一度ダンスパートナーをしたからっていい気になるなよ?」
「もしかして、好きだったりするのか?やめとけよ、あんな女」
「王太子に捨てられそうになって頭おかしくなった女が好きとか、おまえ変わった趣味してんなあ」
ルシードは何も言い返せずにオロオロしている。
それをいいことに3人は口々に、わたしと親しくするなというようなことを気持ち悪い薄笑いを浮かべながら言い続けている。
レイナード王太子殿下の婚約者であるステーシア・ビルハイムの頭がおかしくなったことが魔法科のほうまで広く浸透していることは喜ばしいことではあるけれど、そのこととルシードが絡まれているこの状況は別問題だ。
「頭がおかしくて悪かったわね。3人でつるんで弱い者イジメしているあなたがたも、相当頭悪そうだけど?」
いきなり飛び込んできたわたしにギョッとしつつも、3人のリーダー格と思しき銀髪の男子生徒が食って掛かって来た。
「な、なんだとお!もういっぺん言ってみろ!許さないからな」
「何度でも言うわ。頭悪そうって言ったのよ。聞こえてる?あ・た・ま・悪そう!あなたに許してもらおうだなんて最初から思ってないけど、どうなさるおつもりかしら」
銀髪は、顔を真っ赤にして怒っている。
ふふん、星3タンクの挑発はいかが?腹立つでしょう?
ローブから取り出された杖を見て、しめしめと思った。
魔術師が杖を人に向けるのは、おまえを魔法で攻撃するぞという警告で、学院内では授業以外で杖を人に向けること自体が禁止されている。
こちらが多少乱暴なことをしても「杖を向けられたから怖くて抵抗しただけだ」と正当防衛を主張できる。
「ダメだよ、それマズいって」
銀髪の後ろにいた小太りの男子が後ろからローブを引っ張って制止しようとしたけれど、銀髪は相当カッとなっているらしく杖を下そうとしない。
「至近距離で魔法を当てたらどうなるか知ってるか?」
どうして悪役って、おしゃべりなのかしら。
さっさとぶっ放せばいいのに。
呆れながら素早い手刀で杖を叩き落してやった。
「なっ!?」
石の床にカランと落ちた杖を拾おうと上体を屈めて下を向いた顔に膝蹴りをお見舞いすると、銀髪は鼻を押さえて尻もちをついた。
「近距離戦は物理攻撃の方が有利に決まってるじゃない。あなたってやっぱり頭悪いのね」
後ろの取り巻き二人は真っ青になってドン引きしている。
「実戦ならここで回し蹴りで首をへし折ってトドメだけど、それは勘弁してあげるわ」
そのかわり…と言って、銀髪の腕をグイっと引っ張って無理矢理立たせる。
「そんなにわたくしのダンスパートナーになりたいのなら、お相手して差し上げてよ?」
逃がさないように最大出力で手首をつかみ、腰もがっちりホールドすると、そのままぐるぐる回転して研究室を出た。
さらには長い廊下を、軽快なステップも交えて回転しながら進むと出入り口でフィニッシュ!
遠心力を利用して外にぶん投げてやった。
楽しいっ!
思わず「あっはっは、どうだ!」と高笑いしてしまった。
吹っ飛ばされた銀髪は言葉もなく天を仰いで大の字に倒れている。
追いかけて来た取り巻き二人を振り返り、笑顔を向けた。
「次のパートナーはどちら?」
「ご、ごめんなさいっ!」
「こわい、こわいっ!」
二人は叫びながら伸びたままになっている銀髪を回収し、逃げて行ったのだった。




