閑話・レオンの恋3
マリアンヌの手土産のマカロンと、わたしのいびつなチュイールを囲んで4人でのお茶会となった。
母はさりげなく、伯爵家の嫁・騎士の妻になるだなんて無理に決まっていると周囲に反対された過去や、それでも今はとても幸せで父と結婚して本当によかったという身の上話を織り交ぜながら、楽しくその場を盛り上げてくれた。
ガトーショコラもすぐに食べたいところだったけれど、あれは焼き上げてから半日ほど寝かせておいた方が美味しくなるお菓子なので、食べるとしても夕飯後になりそうだった。
マリアンヌをそこまで引き留めたいところではあったけれど、おばあさまが一人で彼女の帰りを待っていることを考えると得策ではない。
そこまで見越してか、母はガトーショコラを小さめの型でふたつ作っていた。
その片方を「おばあさまと一緒に召し上がってね」と持ち帰ってもらうことになった。
昨日支払うと約束していたレッスン料を渡そうとすると、秘伝のガトーショコラのレシピを教えてもらったのだから本来はこっちが支払わないといけないぐらいだと主張して、マリアンヌは頑として受け取ろうとしてくれなかった。
そして母にまで
「わたしたちはもう友人同士なのだから、そんな金銭のやり取りは無粋よ」
とたしなめられてしまった。
まあ、なんてナイスなまとめ方!
ちゃっかり「友人」になっているだなんて!
こうして、馬車に乗るレオンとマリアンヌを見送った。
レオンには事前に「帰りの馬車の中で絶対に告白しろ」と言ってある。
お母様はわたしの隣で
「これで告白もせずに帰ってきたら、もう家に入れてやらないわ」
と怖いことを言っていた。
母との折り合いも良さそうだし、上手くいくことを確信してレオンの帰りを待っていたのだけれど……戻って来た兄は、なんと泣いていたのだ。
レオンが泣いているところなんて、初めて見たかもしれない。
しかも、もういい大人だというのに。
ええぇぇぇっ!
ま、まさか、お断りされたの!?
駆け寄るわたしを、レオンはいきなりぎゅうぎゅうと抱きしめた。
今夜はガトーショコラでほろ苦い「レオンお兄様の失恋を慰める会」を開催することになりそうね…。
「ステーシア!ありがとう!おまえのおかげだ。マリアンヌにオッケーしてもらえたっ!」
なんだ、びっくりさせないでよ。
うれし泣きだったの?わかりにくいわ。
レオンは、帰りの馬車の中で、身分差を理由に渋るマリアンヌに誠心誠意自分の想いを告げて口説き倒したらしく、マリアンヌは半ば根負けするような形で了承してくれたらしい。
「お兄様、よかったわね。大事にしてあげてね」
こんな力で目一杯抱きしめてはダメよ?
わたしだから耐えているけど、か弱い女性だったら背骨が折れるかもしれないわ。
もうっ、ほんとにゴリラなんだから。




