騎士団の体験訓練1
騎士団の体験訓練が始まった。
初日の朝、屋外訓練場に集められたわたしたちは開始時間を待つ間、思い思いに過ごしていた。
さっそくストレッチをする者、友人の顔を見つけて駆け寄り談笑する者、特に女子たちは人数も少なく心細いのか一か所に固まって、ずっとおしゃべりしている。
その中で異彩を放つのは、真っ赤な後ろ髪を無造作に束ね、厚ぼったく下した前髪で目元のほとんどを隠し、一言も発さないまま仁王立ちになっている女子生徒だった。
何を隠そう、わたしだ!
亜麻色の髪を赤く染め、母には学院の催し物の関係で一旦寄宿舎に戻ると嘘をつき、さらに騎士団のほうには実家が遠方であることを理由に騎士団の寮に宿泊させてもらう手はずをレオンにしてもらっている。
「あんな生徒、うちの学院にいたっけ?」
「さあ?」
ヒソヒソと指をさされて目立っているようだけれど、わたしがレイナード様の婚約者のステーシア・ビルハイムだとはバレていないようだ。
髪を赤く染めて正解だったわね!
そこへ、訓練の指導を担当する騎士たちがやって来た。
その先頭を歩く長兄の顔は、普段わたしに見せる表情とは違う、仕事をしている男の顔だった。
レオンお兄様!かっこいい!
ニマニマしてしまわないように唇を引き締めた。
レオンが名簿を見ながら参加者の名前を呼び、ひとりひとりの顔を確認していく。
「アーシャ・ビルハイム」
「はい!」
勢いよく手をあげて、普段よりもわざと低い声で返事をした。
わたしはビルハイム家の遠縁ということになっている。
そうしておけば、兄と親し気に会話していても「親戚だから」で済む。この訓練には貴族の子供たちが多数参加しているため、ビルハイム家の出身というだけでは忖度はされない。
それどころか、多少荒っぽいことをしても大丈夫だと、むしろ厳しくされるかもしれない。
点呼を終えると、指導官3人の簡単な自己紹介と今回の体験訓練でのルールや注意事項を聞いて、さっそく二人一組でストレッチすることから始まった。
あら、女の子たちと離れて真ん中に仁王立ちしていたのが仇となってしまったわ。
女子たちはさっとペアを作って、わたしはあぶれてしまった。
背中を押したりとかするんでしょう?できれば同性がよかったのだけど、でも騎士団に本当に入団したら圧倒的に男の方が多いのだから、男とか女とか言ってられないわよね。
すぐ隣に見えた腕を掴んで「じゃあ、わたしたちでペアを組みましょう」と言いながら顔を見ると、なんとその人物は…。
「あら、コンドルじゃない」
そう、あの入学鑑定の日の結果が「コンドル」で、いろんな人に「コンドルってどういうこと?」と聞きまくったがために、あだ名がそのまま「コンドル」になってしまった彼だった。
ちなみに本名は知らない。
「おい、赤毛!気安く『コンドル』って呼ぶな!」
「あら、あなたこそ気安く『赤毛』って呼ばないでくれる?」
背中合わせになって相手と肘を絡め、ひとりは相手を背負うように上半身を倒す。
背負われた方は上半身がグーっと伸びるというストレッチだ。
背負われる側になると、コンドルとは身長差があるため足がつかなくて、楽しくて足をバタバタ動かしたら「こら動くな」と叱られた。
上になると楽しいのだけれど、交互にやるわけだから当然わたしが背負う側にもなるわけで…。
「ぐぐっ!重いぃぃっ、こんなに重かったら空飛べないわよ?」
「だから、鳥じゃねーし!コラ、また足バタつかせんなって!」
そんなことを言いあいながらストレッチをしていたら、
「おい、そこおしゃべりするな!」
とレオンに注意されてしまったわたしたちだった。




