学年末パーティー4
「2曲目はシアと踊りたかったのに、会場を出て行ってしまうから追いかけてきたんだ。いきなり手を掴んで驚かせてごめん。シアは相変わらず強いな」
もちろんよ。星3の脳筋タンクを舐めないでいただきたいわ。
「あら、それぞれ別のパートナーと参加しているんですから、肩書だけの婚約者にそこまでしていただかなくてもいいんですよ?早くナディアさんの元へお戻りになってください」
「ナディアはいま、カインと踊っているから大丈夫だ」
だからその間に戻れって言ってんの!
ナディアの健康的なボディーラインを思い出し、本当にわたしはマーガレットのためにこのドレスを最大限宣伝できただろうかと、急に自信がなくなってきてしまった。
わたしの白くて丸い胸は風船のようで、みっともない体をさらけ出して失笑を買っていたかもしれない。
「シアがとても楽しそうにダンスをしていたから、一緒に踊りたかったんだ。今日は随分と大胆なドレスを着ているんだね。ドレスもそのネックレスもよく似合ってる。母と一緒にシアに一番似合いそうなものを選んだから、いつになったらつけてくれるんだろうと思っていたんだよ?」
いまさら、どうしてそんなことを言うの?
わたしのことを好きでもないくせに。白々しいことを言わないでもらいたいわ。
「それと、先日は悪かった。一度シアと二人きりでゆっくり話したい」
どの件を「悪かった」と言っているのか、わからないぐらいたくさんありますが?
とにかく、一流タンクへの土台がまだ何もできていないうちに婚約破棄を切り出されるのはマズい。
逃げよう!
「わたしとゆっくり話す前に、今度はナディアさんに贈る素敵なアクセサリー選びをされたらいかがです?これはお返ししますね」
わたしはネックレスを外してレイナード様に向かって投げつけると、身をひるがえし、スカートを掴んで裾を上げて駆け出した。
今日はとても体が軽い。
1曲踊ってウォーミングアップが完了しているおかげというだけでなく、このドレスのおかげでもある。
ここ最近着ていた悪趣味なドレスは生地をたくさん使い、ドレープもたっぷりなゴテゴテしたもので、とても重たかったのだ。
手足に重りを巻き付けて体を動かしたり日常生活を送るというトレーニングがあるらしいけど、実はわたしもそれをやっていたのかもしれない。
マーガレット!好きよっ!
学院の門の前には、すでに長兄が迎えに来てくれていた。
「レオンお兄様っ!」
「うおっ!」
スピードがありすぎて足が止まらず、レオンの硬い胸板に激突してしまった。
さすがは現役騎士だ。
わたしの猛スピードの体当たりにも兄はビクともしない。
「おまえは婚約者と鬼ごっこでもしてるのか?」
「え?」
レオンの胸から顔を上げると、後ろから「シア、待て!」と呼ぶレイナード様の声が聞こえた。
「早く帰りましょう?」
レオンだけに聞こえるように囁くと、兄はコクリと頷いてくれた。
「いくら王家だからって何をしても許されるのか?騎士団にまであんたが婚約者の前で堂々と浮気しているっていう噂が流れてきているんだ。見損なったよ、レイナード。これで失礼させていだたく」
レオンはレイナード様からわたしを隠すようにしっかりと肩を抱いて馬車まで誘導する。
「シア!もう少し待っててくれ!もうじき全部解決するから、そのときに話そう!」
馬車に乗り込む時にレイナード様の叫ぶような声が聞こえたけれど、わたしは振り返らずにそのまま馬車の中へ入った。
「ステーシア、あんな男はもうやめろ」
正面に座るレオンが怒っている。
「わたしもそのつもりよ。そこでね、レオンお兄様、相談があるの」




