学年末パーティー3
ルシードとのダンスは、予想外に楽しいひとときとなった。
わたしにされるがままに美少年がグルングルン回っている様子がおかしくて仕方なかったからだ。
マーガレットが用意してくれたこのフレアスカートのドレスは、とても軽くてしなやかで、クルクルと回れば回るほど、まるでスカートからシャランシャランと光の粒が零れ落ちるように見える不思議な光沢を備えた生地だった。
日頃からお世話になっているマーガレットへの感謝の気持ちを込めて、彼女の手掛けたドレスの評価が高まるように回れるだけ回ってやる!というのが、今日のダンスでの目標だ。
「ありがとうルシ、とても楽しいわ」
自分の置かれている状況をしばし忘れて楽しく踊った。
途中何度もレイナード様とナディアのペアが近寄って来た気がするけれど、知ったこっちゃない。
絶対にわたしたちのほうが目立っているはずだ。
1曲目が終わると、次はパートナーを変えて2曲目となるのが習わしだけれど、目が回ってフラフラになっているルシードをその場に放っておくわけにもいかず、結局ルシードの腰にそのまま手を回し肩を貸しながら椅子へと誘導した。
「お水を持ってきたらいい?」
「いや、それよりメガネを…」
残念、具合が悪そうにしている様子もまた美しいのに。
そう思いながら、奪ったメガネを返してあげた。
「ステーシアさん、僕ちょっともう、今夜はこれが限界です。先に帰ってもいいですか?」
「ええ、構わないわ。わたしは兄が迎えに来てくれることになっているから」
2曲目の音楽が流れ始めたのを聞きながら、ルシードを会場の外まで見送った。
「またダンスのお相手をしてね、ルシ。今日はありがとう」
手を振ると、ルシードは引きつった顔で弱弱しく手を振り返してきた。
「いや、僕はもう結構です…では失礼します」
なんですって!
わたし、もしかしていまフラれたの!?
気を取り直して、会場のテーブルに並んでいたマカロンをやけ食いしてやろうと回れ右して戻ろうとしたときに、横からいきなり手を掴まれた。
こういうとき、大声を出して助けを呼ぶことができればまだ気丈な方で、並大抵のご令嬢だと驚いてそれすらもできず「ひっ」とか「きゃっ」と小さく叫んでいる間に口を塞がれて連れ去られてしまう。
残念だったわね、ビルハイム家のご令嬢は「並大抵」ではないのよ。
手首を掴まれたとき、後ろに下がって引き抜こうとするのはダメだ。
こういうときはむしろ、相手に向かって掴まれた手の肘と肩をぶつける勢いで突進すればいい。
それを実践すると、相手はいとも簡単に手を放し「うわっ」と叫んで後ろに飛びのいた。
追撃は突進した勢いのまま回し蹴りといきたいところだったが、その声がよく知っている人のものだったために振り上げようとした足を下した。
「レイナード様?何をなさっているんです?」




