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【書籍化】円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語  作者: 時岡継美
本編

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17/81

学年末パーティー2

予約投稿の時間設定を間違えていたため、お昼に公開予定だった分と2話まとめて公開しました。

失礼しました。


 パーティー当日、ルシードが目のやり場に困るような仕草で、それでもどうにか差し出してくれた手に自分の手を重ねた。


 緊張しているのか、それともわたしのことが怖いのか、ルシードは震えている。


「しっかりなさって?」

 デビュタントのときも同じことをレイナード様に言った。

 あの頃の楽しかったダンスレッスンを思い出して、自然と口角が上がる。


 優雅に微笑みながら会場入りすると、周囲のざわめきが一瞬ピタリと止み、不躾な視線がこちらへと向けられる。

 わたしをエスコートしているのがレイナード様ではなく、冴えないメガネの男子生徒であることに、驚いている者よりも、ああなるほどねと納得している者のほうが多い印象だ。


 今日の装いもうんと下品にしてちょうだいとマーガレットにお願いしたにもかかわらず、「それではわたしのセンスが疑われるでしょ!」と拒否されてしまった。


 普段のあの趣味の悪いドレスをどこでオーダーしているのか尋ねて来る人もいないため、作り手は伏せているのだが、学院内のこのパーティーでは将来服飾師を目指す彼女たちにとっては腕の見せどころであり大きなチャンスなのだ。

 だからわたしも、今回ばかりはマーガレットにオーダーしていると公言していた。


 目の覚めるような鮮やかなオレンジの光沢ある生地で、デコルテが大胆に開いたデザインのドレスだ。

 こんなドレスを着るのは初めてで、胸の谷間が見えてるじゃないかとマーガレットに訴えたけれど、わざと見えるようにしているのだと、あっけらかんと言われた。

「ステーシアさんは色白の綺麗なお肌で胸も大きいんですもの。いつももったいぶって見せていない分、インパクトは強烈よ。大胆かつ色気のある装いでレイナード様に後悔させてやりましょうよ!」


 いや、もったいぶっているわけではないんだけれども。


 髪はアップスタイルにして首にある傷痕もさらけ出している状態ではあるけれど、ファンデーションで薄くしてもらっている。

 さらにそこに、全体に花のモチーフがあしらわれているVラインのネックレスを、短めに調整して首と鎖骨に沿わせてつければ、傷痕は全くわからなくなった。

 中心に向かってモチーフがだんだんと大きくなり、真ん中には大きなダイヤが光っているため、このダイヤの輝きの方に目を奪われるのが通常だろうと思う。


 このネックレスはちょうど一年前、レイナード様の立太子の記念に婚約者であるわたしにも贈り物をと王妃様から賜ったものだ。

 あのデビュタント以降も、この一年で何度かレイナード様とともに社交パーティーに招待されたけれど、いつも首元まで覆うドレスを着ていたためにこのネックレスを身に着けるのは初めてだった。

 

 もしかすると王妃様は、わたしの首の傷痕が目立たないようにという配慮でこのネックレスを選んでくれたのかもしれない。

 もっと早くそのことに気づけばよかった。

 このネックレスを身に着けるのは、これが最初で最後になるだろう。



 入口の方でわあっという声が上がるのが聞こえて振り返ると、レイナード様がナディアをエスコートして入ってくるところだった。


 レイナード様は王太子が公式行事のときなどに着用する正装を纏い、ナディアはオフショルダーでマーメイドラインの白いドレスを着ている。

 彼女の引き締まった健康的な身体に、マーメイドラインのドレスはとてもよく似合っていた。


「まるでお二人の結婚式のようね」

 そんな声まで聞こえる。


 本当に、よくお似合いの二人だと思うわ。


「ね、ねえ、ステーシアさん」

 隣に立つルシードがまたカタカタと震え始める。


 忙しい人ね、あなたって。


「入って来るなり、レイナード殿下が僕のことをずっと睨んでいるんですけど?」

「さあ、知らないわ。気のせいじゃなくて?」

「気のせいじゃないですってば!」


 ルシードは、わたしが名乗る前からわたしのことを知っていた。

 レイナード殿下の婚約者であるあなたが、なぜ僕をパートナーに?と聞かれたから、こちらも正直に説明済みだ。


 あなただって知ってるでしょう?レイナード様とナディアさんが恋仲だって。だからわたしのことをエスコートしたくないご様子だったから、お断りしたのよ。

 でもドレスはすでに出来上がっているから、パーティーに出席しないわけにはいかないの。


 わたしの説明を頷きながら聞いていたルシードは最後に「それはわかりました。それで…なんで僕に?」と聞いてきた。

「それは、あそこであなたとぶつかりそうになったからに決まってるじゃない!」

 そう答えると、ルシードはまるで貧乏くじでも引いたような複雑そうな顔をしたのだった。



「じゃあ、見えないようにメガネを外しておけばいいわ」

 わたしは有無を言わさずルシードの野暮ったい黒縁瓶底メガネを奪った。


 すると驚いたことに、切れ長で涼やかなとても綺麗な目が現れたではないか!

 あのときのボサボサ頭とは違い、今日はパーティー用に黒髪をワックスで整えていることも相まって、とんでもない美少年になったルシードに周囲も気づき始めて「あれは一体誰だ」と噂し始めている。


「ルシ、あなたとんでもないものを隠していたわね」

「ルシって誰?」

「あなたのことに決まってるでしょ!さあルシ、ダンスが始まるから行きましょ」

「待って!何も見えないんだけど?」


 取り上げたメガネをポケットに入れると、にっこり笑ってルシードの手を取った。

「大丈夫、わたくし、リードには慣れていますのよ」 



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