学年末パーティー1
レイナード様に嫌われる悪役令嬢になりきれているのかわからないまま、もうすぐ学院での1年が終わろうとしている。
結局あのあとも勉強会には積極的に参加した。
貞淑な婚約者でいた頃には、足並みをそろえるように気を遣いながら進めていた演習課題も、もうそんな気遣いなんてしてやらないわ!と、自分のペースでガシガシ解いてみせた。
そして「あら、みなさんこんな問題に手こずってらっしゃるの?」という態度をとったのに、ナディアからもレイナード様からも「すごい」と褒められてしまった。
勉強会のあとのお茶の時間に、お菓子を行儀悪く食べてやろうとマカロンを一口で全部頬張ってみせると、レイナード様は「リスみたいだね」と笑うし、カインとナディアは、そんなに腹ペコならどうぞと自分の分をわたしに分けてくれた。
なんか違う……。
なんか違うんですけどっ!?
進級テストも終わり、あとは週末の学年末パーティーが終われば2か月の長期休暇に入ることになっている。
この日は、最後の勉強会だった。
いつもの教室へ行くと、レイナード様とカインが言い争っているような声が聞こえて、わたしはまたドアに手を掛けたまま動きを止めた。
「はあっ?シアに好きだと言え!?何言ってるんだ、そんなこと言えるわけないだろう!」
レイナード様の声は随分と気色ばんでいる。
きっとカインに言われたのね。
婚約破棄だなんて馬鹿なこと言わないでステーシアとの婚約を継続しろ。嘘でいいから好きだと言っておけば、喜んですがってくるだろう。
そんなところかしら?
そんなのまっぴらごめんだわ。
勢いよくドアを開けると、驚くレイナード様と、気まずそうにするカインとナディアの顔が見えた。
「結構よ。レイナード様に今更そんな告白されても、こちらも迷惑なだけですもの。週末のパーティーのエスコートも不要ですわ。もうすでに、ほかの方に頼んでいますので。今日はそれだけ言いに来ましたの。では、ごきげんよう」
にっこり笑って、今度は勢いよくドアを閉めた。
「シア!」
すぐにレイナード様が飛び出してきたようだけれど、わたしの姿は見つけられないはずだ。
なんせ、2階の廊下の窓から飛び降りたんですもの。
来週からの騎士団の訓練に向けて、自主的に筋トレしておいて助かったわ。
華麗に着地すると、その場から軽やかに走り出した。
振り返っている暇などわたしにはないのだ。
さっき勢いで「ほかの方にエスコートを頼んでいる」と言ってしまったけど、どうしようかしら。
学院の敷地を掛けぬける途中にふとそのことが頭に浮かんだ。
それは嘘だった。
本当はそんなあては全くない。
学院内の催しだから、お兄様たちにも頼めないし…。
考え込みながら走っているうちに、曲がり角で誰かとぶつかりそうになった。
「うわあっ」
相手がひっくり返って、尻もちをつきながらずれたメガネを元の位置に戻している。
ボサボサの黒髪で小柄な、ひ弱そうな男子生徒だった。
「あら、ごめんなさい。ところであなた、パーティーのパートナーはもう決まっていて?」
「ええっと…まだです…が?」
相手が戸惑っているうちに勢いで攻めまくるわ!
「じゃあ、わたしのパートナーになってちょうだい。エスコートお願いねっ!」
「……え?」
「『え』じゃなくて『はい』でしょ!」
「は、はい…?」
「やった!よろしくね。ところであなた、お名前は?」
その日、わたしはルシード・グリマンという、魔導具師を目指す気弱な男子生徒と無理矢理パートナーになったのだった。




