悪役令嬢とは4
「もう体が大人に近くなったわたしたちには、アマガエルじゃ小さすぎたみたい。ウシガエルを探すべきだったわ」
今日の反省を口にすると、リリーに呆れられてしまった。
「大きさの問題じゃないでしょ。カエルを使って騒ぎを起こそうだなんて、悪役令嬢じゃなくて鼻たれ小僧のすることよ?」
「あら、そうなの?」
「ステーシアさんて、しっかりしていそうでどこか天然よね」
マーガレットには言われたくないわ。
学院内ではすでに、王太子の婚約者がちょっとおかしくなったという噂が立ち始めている。
趣味の悪いドレスをとっかえひっかえ見せびらかすように身に着け、目も眉も吊り上がって見える派手な化粧をして、行動や発言も突飛で下品になったと。
まさかあれで心変わりした王太子の気を引くつもりなのかと笑う者もいれば、王太子の浮気のせいで気がふれてしまったのだろうと心配してくれる者もいる。
いずれにせよ、ステーシア・ビルハイムはもうまともではないと皆が思っているのだ。
「悪役令嬢」というよりは、「頭がおかしくなった令嬢」になっているようだけれど、例えばもっと定番の、噴水に突き落とすような直接ナディアに危害を加えるイジメは正直性に合わなくてできないから、もうこの際、頭がおかしい方向で押し通すしかない。
「ステーシア、この状況はあなたには圧倒的に不利だわ。頭がおかしくなった令嬢に救いの手を差し伸べてくれる人なんていないわよ?婚約破棄されたあと、どうするつもりなの?」
リリーが珍しく険しい顔で言ってくる。
「調べてみたけどね、過去に同じように婚約破棄されたご令嬢もいたけれど、ろくなことになってないわ。実家の領地から出ずに幽閉されたも同然で一生を終えていたり、不慮の事故で亡くなっていたり…これはきっと、そう偽装しているだけで殺されたのよ、王室に。わたしは、あなたをそんな目に遭わせたくないの」
「ありがとう、リリー。でも婚約破棄されたあとでも、わたし自身に十分な利用価値があるのだとしたらどうかしら?」
「どういう意味?」
訝しがる二人に声を潜めて告げる。
「これから話すことは、たとえ家族にも口外禁止よ。わたしの鑑定結果はね『星3の盾役』だったの」
リリーとマーガレットが同時に息をのむ。
「今は平和な世の中だけど、万が一戦争にでもなったら、わたしはその最前線で戦うわ。レイナード様とそのご家族を守り切ってみせる。忠誠を誓い続ければ悪いようにはされないはずよ。だから、今度の長期休暇には、騎士団の訓練に参加しようと思っているの、もちろん素性は偽るわよ?そこで『なんかすごいヤツがいる』ってなったら、惜しくなって殺されたりだなんてしないはずよ」
あら、二人ともどうしてそんな泣きそうな顔をしているの?
すごいわね、頑張って!って励ましてほしいのに。
「もうっ、どんどんおかしな方向に行ってるじゃないの!どうなってんの、レイナードの野暮天!あいつ、〇〇〇ついてないんじゃないの!?」
あらあら、リリーったら、レディーがそんなこと言ってはいけないわ。




