悪役令嬢とは2
わたしがさっそく、そんな二人に「円満に婚約破棄をするために、あることを思いついたのだけど」と相談すると、二人ともとても複雑そうな顔をした。
「待って!そもそもレイナード殿下は本当に完全に心変わりしてしまったの?もうステーシアに対する愛情はないってこと?」
「ナディアさんが来るまでは、殿下とステーシアさんはとっても仲睦まじい恋人同士のように見えたけど…」
いやいやいや、何をおっしゃる!
わたしたちが「恋人同士」だったことは一度もない。
幼馴染からいきなり婚約者になって、社交パーティーでは当然のようにパートナーとなって、今に至る。それだけだ。
「わたし、レイナード様から一度も『好き』と言われたことなんてないのよ。『婚約者になってください』なら言われたけど」
「「ええっ!?」」
二人の驚きの声がそろう。
「でも、婚約者になってくださいイコール好きってことなんじゃないの?」
マーガレット、いい質問ね。
非常に庶民感覚だわ。
「貴族にはね、政略結婚というものがあって、必ずしも好きだから婚約者になるっていうわけではないの」
「でも…」
リリーが口を挟む。
「勘違いしないでね、決してビルハイム伯爵家のことを蔑むわけではないのよ?ただ、ビルハイム家の令嬢と結婚してどんなメリットがあるのかしら?ボディーガード?」
リリー、あなたまでいい質問ね。
「その通りよ、何せわたしは若干10歳にしてお世継ぎを吸血コウモリの群れから無傷で守り抜いたのよ。この子なら山賊に襲われようが海賊に襲われようが、その身を投げうって命尽きるまでレイナード様の盾になりきるだろうと見込まれたんだわ、きっと」
「なんか、壮絶ね」
「悲壮感と使命感が半端ないわね、さすがビルハイム家のご令嬢だわ」
「それに、レイナード様がわたしを婚約者にすることに素直に頷いたのはきっと…」
ここで声のトーンが落ちるのが自分でもわかった。
「この傷痕のせいだわ。レイナード様は責任感が強くてお優しいから、いつまでも罪悪感を抱いてらっしゃるのよ。だから彼には最初から愛情なんてなかったの」
首にそっと手を当てた。
「でも!ステーシアさんは、殿下のことが好きなのよね?」
マーガレットったら、どうしてあなたが泣きそうな顔をしているのかしら。
「そうね、好きだったわ。たぶん、初めて会った日からずっと」
でも、大きくなってからは、その気持ちをきちんと彼に伝えたことはなかったと思う。
「ナディアから取り返してやろう!って気持ちはないの?」
「リリー、あなたはいろんな物語をたくさん読んでいるから知っているでしょう?わたしの今の立場は『悪役令嬢』なんじゃないかしら。王子の婚約者で、ヒロインにあれこれ意地悪をして、卒業パーティーで大っぴらに婚約破棄を言い渡されるアレよ。
レイナード様に嫌われまくって、周囲からもステーシアは王太子殿下の婚約者には不適格だとなれば、レイナード様が悪者になることなく婚約破棄できるでしょう?わたしはそれを目標に気合を入れて悪役令嬢を演じ切ってみせるわっ!」
「そんな…」
ああ、マーガレット、わたしのために泣いてくれるのね。なんて優しい子。
わたしが男だったら、あなたのことを放っておかないわ。
「とんだ脳筋の無駄遣いって感じね」
リリー、あなたのその言葉選びが好きよ。
わたしが男だったら、あなたのことも放っておけないわ。
あら、わたしって意外と浮気性だったのね。




