恋敵4
図書室で海賊の本を探してみたけれど、海賊の実態について語られている書物はなく、海賊キャラが出てくる物語が数冊あるだけだった。
山賊に至っては、山賊が主人公になっていたり、ヒロインの相手役になっている物語すら皆無だ。
山賊といえば、無慈悲に人を殺し金品を奪うたちの悪いゴロツキで、やっつけられておしまい、という認識が物語の中でも定番らしい。
挿絵にかっこいい海賊が描かれているロマンス小説を、図書室の隅にある椅子に座り、最初はなんとなくパラパラとページをめくっていたけれど、どんどん物語に引き込まれて途中からは夢中で読んでしまった。
突然の嵐で難破しかけた船に乗っていたお姫様を海賊たちが助けたところから始まる、お姫様と若き海賊の頭領の身分差ラブストーリーだ。
海賊を取り締まる側の王家の娘と、弱者を助ける男前な心意気を見せながらも犯罪を犯すことだって厭わない海賊との恋は、誰にも知られてはならない禁断の恋だった。
それが許されることのない叶わぬ恋だとわかっていても、互いに惹かれ合う気持ちは増すばかりでお忍びで逢引を重ねるのだが、ついにそれがバレてしまい、姫は厳重な監視をつけられて外部との連絡手段も断たれてお城に閉じ込められてしまい、さらには無理矢理、別の男と婚約させられてしまうのだった。
ここまで読んで「まあ、なんてこと…」と思わずつぶやいてしまった。
この二人の恋にハッピーエンドはあるのかしら?
ドキドキハラハラしながら先を読もうとしたところで、こちらに近づいて来る足音と小さな話し声が耳に入って来た。
「こんなことになるとは思わなかった」
わたしは動くことも息をすることさえも止めた。
その声がレイナード様のものであると気づいたからだ。
「おまえが不器用なせいだ。だから断れって言ったのに」
これはカインの声だろう。
「父に相談してみようと思う」
「おまえの評判が悪くなるようなことを陛下がお許しになるはずがないだろうが」
「仕方ないじゃないか、このままではシアが不憫だ」
わたしの名前まで飛び出してドキンとしたが、息を殺して気配を消し続けた。
今、わたしは聞いてはならない会話を聞いている。
レイナード様が本音を親友に吐露している。
……どうか見つかりませんように。
その願いが通じたのか、声は次第に遠ざかってゆく。
そのあともわたしは、図書室の閉室時間になるまで身じろぎもせず、海賊の小説を持つ手に力を込めてその場でじっとし続けたのだった。




