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【書籍化】円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語  作者: 時岡継美
本編

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恋敵3

 この日のテーマは「海賊と山賊対策」だった。


 小さな国土をぐるっと海に囲まれているナディアの国では、海運・海上貿易が必須であり、海賊との関係も切っても切れない状況にあることや、海賊に助けてもらったこともあるという話をナディアがわかりやすく説明してくれた。


 かたや我が国は、国の南東に小さな港があり、そこだけが海に面していて、残りの国土は山に囲まれているという立地だ。

 山には山賊が多くいて、金持ち風の馬車を見ると襲って金品を奪ったり女性を連れ去ったりするため、どうしても山を抜けるルートを走らなければならないときは用心棒を雇うのだが、この「用心棒」というのがまた曲者で、中には山賊と通じている悪い輩もいるため注意が必要だった。


 孤児院の運営や初等学院の設置で子供たちを手厚く支援しているはずの我が国でも、さまざまな理由でその支援の輪からこぼれ落ち、最終的に山賊になってしまう子供たちがいる。

 この山賊の撲滅を掲げて毎年国家予算も組まれているものの、道のりは険しいのが現状で対策に苦慮している。


 レイナード様はそんな話をされ、それをカインが補足したり、貿易船から積み荷を奪おうとする海賊への対策はどのようなことを行っているのかとナディアに質問したりしている。


 その中でわたしは血の気が引く思いでそこに座っていた。

 勉強会では毎週、次週に何をするかテーマを決めて予習してきたことをもとに互いに議論をかわしたり、学院の定期試験前だと試験勉強をしたりするのだけれど、わたしは今回のテーマを聞かされていなかったからだ。


 先週は試験前で、4人で互いの得意科目を教えあって「試験、頑張りましょう」で終わったはずだ。

 今日のテーマはいつ決まったのだろう。

 どうしてそれを教えてもらえなかったのだろうか。

 それぞれの国がどのような対策を行っているかとか、予算がどうこうとか、この3人が事前の準備なしにここまで語れるのだとしたらすごいけれど…。


「親しくなれとは言わないけれど、彼らの事情や主張に興味を持って耳を傾けることも必要だと思うわ」


 ナディアの明るい声をどこか遠くで聞いていると、レイナード様がわたしに顔を向けた。


「シアはどう思う?」


 どうも何も、これまで山賊に襲われた経験はないし、ビルハイム家の馬車を襲おうものなら返り討ちにして抹殺してやるだけだ。

 海賊に関しては「物語に出てくるキャラ」ぐらいの認識しかなくて実物を見たこともない。

 この場で言えることは

「海賊って本当にドクロマークの帆を掲げて、眼帯をしていて、かぎ爪の義手をはめているんですか?」

というくだらない質問ぐらいだろうか。


 事前にテーマを教えてもらえていれば、睡眠時間を減らしてでもしっかり予習してきたのに…。

 そんなみっともない言い訳をここですべきではない。

 予期せぬムズカシイ話を振られたときに、わたしがどう対処するか試されているんだろうか。

 それとも、わたしをみじめな笑いものにしたいだけ…?


「申し訳ございませんっ、勉強不足で…出直してまいります」


 泣きそうになっている顔を見られたくなくて、うつむいたまま立ち上がると急いでドアへと走った。


「シア、待って!」

 レイナード様の声が聞こえたけれど、待てと言われて素直に待つはずがない。

 背中を向けたまま教室を出て廊下を駆け抜け、角を曲がったところで足を止めた。

 

 雑談はいいから早く勉強しようと促したのはわたしなのに、何も答えられないからって逃げ出すだなんて、なんてみっともないんだろう。

 レイナード様もさぞや失望したことだろう。

 勉強会への参加は今日限りにすると伝え損ねたけれど、来週わたしが顔を出さず、そのことでさらに心証が悪くなったとしてももう構わない。

 

 周りに誰もいないのを確認して大きく深呼吸した。


 このまま寄宿舎に戻っては、動揺を隠しきれずに友人たちを心配させてしまうかもしれない。

 人の少ない静かな場所で気持ちを落ち着かせようと決めて、図書室へと向かった。

 

 

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