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8

 元いた場所へ戻るように促され、しずしずと壇上から降りてきた姉妹と目が合う。


 姉は嘲笑う用な顔を私だけに見える角度で、妹は勝ち誇った顔をコレまた私に見える角度で見せてから両隣に収まった。


「ミスティーナ嬢、こちらへ」


 殿下に言われて顔を上げる。嫌だなぁこの流れ、とんだ公開処刑だぞこのヤローと心で叫びながら壇上へ向かう。


「殿下方、この度はご卒業おめでとうございます」


 姉達と同じように挨拶をして両殿下の前に立つ。


「有り難うミスティーナ嬢」


 紫の殿下がそう言って目を細める。先程の何とも言えないぞわぞわ感が甦るが表面には出さないように気を付けた。


「私の色をくれるか?」


 この方は、今日は何故か妹の色である紫を纏っていて、姉と妹から赤い石の装飾品を渡されていて。


 でも初めてお会いした日には青いリボンをしていて、普段は姉と話す事の方が多くて、ちょこちょこ私に話しかけてくる方で、自分の色のリボンが欲しいと言っていた――


「こちらで良いのか?」


 私は箱の印を確認して、殿下に渡し、殿下が箱を開けると、そう聞いてきた。


「欲しいと仰ったのは殿下です」


 私はへの字に口を曲げて話す。大丈夫、この顔は殿下方にしか見えていないはずだ。


「そうだな、有り難くいただこう」


 にこやかに笑みをこぼす殿下に、やっぱり美形って(以下略)


 何となく釈然としないまま銀色の殿下に残りの箱を渡す。


「なるほど、もう少し君と過ごす時間を取れば良かったと後悔している」


 箱を開けた銀の殿下が、ニヤリと笑みを浮かべて言った。


「まあ、赤いリボンを着けた殿下とはお話しさせていただいていましたけど?」


 しらばっくれてそう言うと、殿下はますます楽しそうに口の端を上げた。


「その時私がどっちの色のリボンを着けていたのか、君はわかっていたんだろう?」


 そう問われれば答えは是である。が曖昧に笑っておいた。


 と、言うのもこの殿下方、ちょこちょこ入れ替わるので、どちらがどちらの名前なのかはっきりしなかった。

 個人としては判別出来ていたが、名前がしょっちゅう(なんなら二回目に会った時には)変わっていたので混乱した。


 そして苦肉の策が『殿下は殿下』だ。コレならまあ嘘偽りじゃないし失礼にも当たらないとの判断だ。まあ、三ヶ月前に言われて分かったことがひとつだけある。


 きっとリボンが本体なのだ、と。


 名前はリボンの色の方に付いている。回りもそれで覚えているみたいだし。しかし今日はその肝心な本体が無い。まあ本体がないとは言え、比較的青い方の殿下との約束があったのでそちらを優先する事にした。


 私の前で比較的赤い方の殿下は箱の中から赤いリボンを出して髪に結ぶ。隣で本日紫の比較的青い方の殿下が青いリボンを結んだ。


 また講堂の中が騒がしくなったが、私のせいではない。紛らわしい色を纏っている殿下方が悪い、と言っておこう。


「ミスティーナ嬢、貴方からの卒業祝いに心からの感謝を」

「ありがとうミスティーナ嬢」


 青いリボン、赤いリボンの殿下と続けざまに言われて、下がるように促された。しずしず(自称)と元いた場所へ戻るが、姉の侮蔑がにじむ顔と妹の嘲笑が浮かんだ顔に迎えられた。


 これは嬉しくはない。


「さて、本日私たちが婚約者を指名すると言うのは皆周知の事で有ろう」

「私たちは似すぎているために、王太子の位が婚約者の選定により決定するのも周知の事だと思う」


 青い殿下、赤い殿下と交互に言葉を紡ぐ。威風堂々と語り掛ける様は流石王族だ。人前に慣れていらっしゃる。


「先ずは婚約者候補のカトレッド家のご令嬢方、卒業祝いの品をありがとう」

「心からの品を用意してくれて感謝している」

「だが、私たちは少々色にこだわりがある、色は個を表す唯一だったからだ」


 嘘おっしゃいと、突っ込みを入れそうになった。こだわりあるなら本体リボンを頻繁に取り替えたりしないだろう。


「自分の色でない品をお返しする無礼をご理解頂きたい」

「よろしいかな? カトレッド家のご令嬢方」


 両脇で姉と妹が自信満々で返事をしていたので、私は首を縦に振るに留めた。


「水晶をこちらに」


 がらがらとカートを押す音がして使用人によって丸く透明な石が運ばれて来る。


「これは皆にも馴染みが有るだろう、魔力の色を見る水晶だ」

「先程申した通り、私達は似すぎている。完璧に見分けられる者は両親である両陛下だけだ」

「それは少々厄介だった。先程申した通り我々は色に、己の個性にこだわりがあり、自立心を持っていたからだ」


 だからこだわりがあるなら(以下略)である。まあ入れ替われる事が有益な事も有るからだろう。多分。


「だから私達は婚約者選定において国王陛下並びにカトレッド公爵とひとつだけ条件を付けさせてもらった、条件は」


「「私達を見分けられる者でなくてはならない」」


「これは、いずれどちらかが国王となる時に、私達の入れ替わりを防ぐ意味合いもある」

「本日、カトレッド家のご令嬢方に頂いた装飾品とこの水晶で、見分けられているかの証明を致す」

「皆には立会人となってもらいたい、どうだろうか?」


 ぱちぱちと会場内から熱気のこもった拍手が鳴り響く。両隣の拍手の音を聞きながら、私は会場とは逆に青ざめた。


 いやいやちょっと待て、本当に待って、止めてくれ。


「カトレッド家のご令嬢方も、それでよろしいか?」


 よろしい訳あるかぁぁぁ、私の幸せ未来計画に暗雲がぁ!


「「はい」」


 両端が自信満々に返事をしているが私は首を縦に振る程度に留めた。だって横には振れない雰囲気だった、一応空気は読んだ、これでも。


 私達の返事を確認し、本日紫色の比較的青い方の殿下が水晶の方に手をかざす。


 ああ、コレで水晶が赤くなったらすべて丸く収まるのに! と考えて、あれ、もしかして赤く光るんじゃない? と可能性を見つけた気分になった。


 つまり比較的青い方の殿下がルビス殿下の可能性だ。

 見分けてほしかったと言っていたから、あえて逆の色を多めに身に付けていたかもしれない。私に青いリボンが欲しいなんて言ったのは、姉と妹を特別視させる狙いが有ったのだろう。うん、多分そうだ、いわゆる出来レースと言うやつだ。きっとそうだ、そうであってくれぇ!


 多分両隣も赤になれ! と、祈るような格好で紫の殿下を見ていた。初めてカトレッド三姉妹の意見が一致した、大変貴重な瞬間に違いない。


 つんと殿下の指先が水晶玉に触れ、水晶に白い靄がかかる。赤、赤! と念じるが見ていられなくて、目をつぶった。私が見なくてもギャラリーが騒ぐだろうし。


 しかし思惑とは裏腹に誰も一言も漏らさない講堂は一瞬の静寂に包まれた。囁きも、衣擦れさえも聞こえない。


 いや、誰か歓声を上げるとか悲鳴を上げるとかしてよ、と、多少理不尽な怒りを他人にぶつけながら片目を開けて水晶を見る。両目で見ても結果は変わらないが……気分的な問題である。


「青だ……」


 講堂内に居るほぼ全員の言葉を代表して誰かが呟いた。


「青ってことは……?」

「あのお方はサフィア殿下と言うことか?」

「アネットーカ嬢が間違えた!?」

「イモットゥーリ嬢もだ」

「青い装飾品を渡したのは次女の……?」


 ざわめきの中でも私の名前が出てこない事にちょっと泣きたくなる。


 そりゃぁ存在感消していたけどさぁ、目立たないようにフレーバー水の水割りしてたけどさぁ……同じクラスの人とか居たわけで、二年間は確実に学園に通って居たわけで、これでも公爵令嬢なわけで……


 止めよう。むなしくなるだけだ。


 現実逃避しても、目の前も逃避したくなる現実であった事を思い出した。視線を上げると本日銀色の比較的赤い殿下が水晶に触れていた。こちらもやっぱり水晶は赤くなる。


 いや、どうしよう? なんて視線を宙にさ迷わせていたら、比較的青い方の殿下、サフィア殿下と目が合った。と言うか目の前に立っていた。


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